この記事でわかること
- 産業医の職務のうち、オンラインで実施できる範囲と実地が必要な範囲
- 厚生労働省の通達が求めている社内の準備(衛生委員会での調査審議・周知など)
- リモート産業医が向いている会社・向かない会社
オンラインで産業医を探している会社の方へ(この記事の執筆元)
筆者は現役の医師・産業医です。株式会社MeIXでは、信頼できる産業医ネットワークにより、オンラインの単発面談から嘱託・顧問契約まで提供しています。→ リモート産業医のプランと料金
「リモート産業医」に法律上の定義はない
「リモート産業医」「オンライン産業医」という言葉は、法令上の区分ではありません。産業医の職務の一部を、情報通信機器を用いて遠隔で実施する形態を指す実務上の呼び方です。
産業医の職務は労働安全衛生規則第14条第1項に9項目が定められています。
- 健康診断の実施およびその結果に基づく措置
- 長時間労働者等の面接指導・安衛法66条の9の必要な措置およびその結果に基づく措置
- ストレスチェックの実施、高ストレス者の面接指導およびその結果に基づく措置
- 作業環境の維持管理
- 作業の管理
- その他労働者の健康管理
- 健康教育、健康相談その他健康の保持増進を図るための措置
- 衛生教育
- 労働者の健康障害の原因の調査および再発防止のための措置
このうち、どこまでを遠隔で実施できるかを整理したのが、厚生労働省の通達「情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について」(令和3年3月31日付け基発0331第4号)です。
同通達は基本的な考え方として、留意事項に基づいて産業医の職務を実施する場合には、「産業医として選任されている事業場以外の場所から遠隔でその職務の一部を実施することとして差し支えない」としています。
職務ごとの整理:オンライン可・実地必要
| 職務 | 遠隔実施 | 通達が求めていること |
|---|---|---|
| 医師による面接指導(安衛則14条1項2号・3号) | ○ | 面接指導の通達(基発0915第5号)に基づく。医師が必要と認める場合は直接対面 |
| 健康相談・健康教育 | ○ | 衛生教育はeラーニング等に関する通達に基づく |
| 衛生委員会への出席 | ○ | オンライン開催の通達(令和2年8月27日付け基発0827第1号)に基づく |
| 作業環境の維持管理・作業の管理(同4号・5号) | △ | 職場巡視の際に実地で作業環境等を確認する必要がある |
| 労働者の健康障害の原因の調査・再発防止措置(同9号) | △ | 視覚・聴覚だけでなく、臭気や皮膚への刺激・粘膜への触感による情報も必要になることが想定されるため、原則として実地で確認(報告書等の確認で足りると判断される場合を除く) |
| 定期巡視(安衛則15条) | ✕ | 少なくとも毎月1回(要件を満たす場合は2か月に1回)、産業医が実地で実施する必要がある |
つまり、面談系はオンラインで完結でき、職場を見る職務は実地が必要というのが結論です。「すべてをオンラインで済ませられる」という説明があれば、そこは確認が必要な部分です。
なお、安衛則15条の定期巡視は、事業者から毎月1回以上、衛生管理者の巡視結果等の情報提供を受け、事業者の同意を得ている場合には、少なくとも2か月に1回とすることができます。
導入時に会社が決めておくこと
同通達は、遠隔で産業医の職務を実施する場合の共通事項として、次を求めています。
- 衛生委員会等での調査審議と労働者への周知:どの職務を遠隔で実施するか、その際の留意事項について
- 必要な情報の提供:安衛法13条4項に基づき、遠隔で職務を行う産業医に、労働者の健康管理に必要な情報が円滑に提供される仕組みを構築すること
- 実地確認ができる仕組み:遠隔で実施する職務についても、産業医が必要と認める場合には事業場で実地に作業環境等を確認できる仕組みを構築すること
- 緊急時の体制:事業場の周辺の医療機関との連携を図る等の必要な体制を構築すること
使用する情報通信機器についても、映像・音声の送受信が常時安定していること、情報漏えい・不正アクセスの防止措置(アクセス管理、アクセス記録の保存、脆弱性対策等の技術的安全管理措置)を講じることが求められています。
リモート産業医が向いている会社・向かない会社
| 向いている | 検討が必要 | |
|---|---|---|
| 業種 | オフィス系(事務所中心) | 製造・建設・運輸など現場リスクが大きい |
| 事業場の状況 | 産業医を探しにくい地域/小規模拠点が分散 | 有害業務があり作業環境管理が中心課題 |
| 目的 | 面談・健康相談・健診事後措置・衛生委員会 | 職場巡視を軸にした改善 |
50人未満の事業場は、そもそも産業医の選任義務がなく(安衛法13条1項、安衛令5条)、定期巡視の義務もないため、オンラインだけで完結させやすい領域です。当社でも50人未満の事業場はオンラインのみで対応しています。
一方、50人以上の事業場で産業医を選任する場合は、実地の職場巡視が必要になるため、訪問と組み合わせる設計になります。
費用の目安
| プラン | 料金(税別) |
|---|---|
| スポット面談(1回) | 基本料金2万円(業務時間30分まで)/超過15分ごと+0.75万円/上限3.5万円 |
| リモート産業医(顧問・嘱託) | 月3万円〜 |
| 訪問嘱託産業医 | 月5万円〜 |
よくある質問
Q1. 産業医の職務をすべてオンラインにできますか?
A1. できません。定期巡視(安衛則15条)は、少なくとも毎月1回(要件を満たす場合は2か月に1回)、産業医が実地で実施する必要があるとされています。
Q2. オンラインで面接指導を行っても法的に有効ですか?
A2. 厚生労働省の通達が留意事項を示しており、映像と音声で相互に確認できる機器を用いるなどの要件を満たせば実施できます。音声のみの電話による面接指導は認められていません。また、実施する医師が必要と認める場合は直接対面で行う必要があります。
Q3. 導入前に社内で何をすればよいですか?
A3. どの職務を遠隔で実施するか、その留意事項について衛生委員会等で調査審議し、労働者に周知することが求められています(50人未満の事業場は、関係労働者の意見を聴く機会の活用が考えられます)。
Q4. 50人未満でもリモート産業医を契約する意味はありますか?
A4. 選任義務はありませんが、健診の意見聴取(安衛法66条の4)や長時間労働者の面接指導(同66条の8)は人数を問わず義務です。相談ルートを確保する目的で契約する会社があります。
Q5. 訪問とオンラインを組み合わせられますか?
A5. 可能です。50人以上の事業場では、実地の職場巡視を訪問で行い、面談や衛生委員会をオンラインにする設計が現実的です。
まとめ
リモート産業医は、面談・健康相談・健診事後措置・衛生委員会といった「人と向き合う職務」をオンラインで完結させる形態です。一方で、職場巡視と作業環境の確認は実地が必要とされており、ここを曖昧にしたまま契約すると後で困ります。導入時は、遠隔で実施する職務の範囲を衛生委員会等で調査審議して労働者に周知し、情報提供と緊急時の体制を整えることが通達で求められています。
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執筆・監修
小正 晃裕(医師・産業医/循環器内科専門医・不整脈専門医・両立支援コーディネーター/株式会社MeIX 代表取締役CEO)
参考・出典:労働安全衛生法第13条/労働安全衛生法施行令第5条/労働安全衛生規則第14条・第15条(e-Gov法令検索)/厚生労働省「情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について」(令和3年3月31日付け基発0331第4号)/同「情報通信機器を用いた…医師による面接指導の実施について」(平成27年9月15日付け基発0915第5号・令和2年11月19日付け基発1119第2号による改正後)/同「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第17条、第18条及び第19条の規定に基づく安全委員会等の開催について」(令和2年8月27日付け基発0827第1号)

