この記事の要点
産業医の選任義務は常時50人以上の事業場のみ。しかし健診の意見聴取や長時間労働者の面接指導は人数に関係なく義務です。50人未満の会社で医師の対応が必要になる4つの場面と、その備え方を産業医が解説します。
執筆・監修:小正 晃裕(医師・日本医師会認定産業医。詳しいプロフィールは記事末尾)|最終更新日:2026年10月19日
この記事でわかること
- 50人未満の事業場でも法律上「医師の対応」が必要になる4つの場面
- それぞれが義務なのか努力義務なのか、根拠条文つきの整理
- 産業医と契約していない会社が、どう備えておけばよいか
「うちは50人未満だから産業医は不要」と考えている会社の方へ(この記事の執筆元)
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前提:選任義務がないことと、義務がないことは別
産業医の選任義務があるのは、常時50人以上の労働者を使用する事業場です(労働安全衛生法第13条第1項、労働安全衛生法施行令第5条)。50人未満の事業場については、医師等に労働者の健康管理等の全部または一部を行わせるよう努める義務にとどまります(同法第13条の2)。
ただし、労働安全衛生法には事業場の人数を問わない義務がいくつもあります。以下の4つが、50人未満の会社で実際に医師の対応が必要になる場面です。
場面1:健康診断で「所見あり」の従業員がいるとき
健康診断の結果、異常の所見があると診断された労働者については、健康を保持するために必要な措置について医師の意見を聴かなければなりません(安衛法66条の4)。これは全事業場の義務で、人数要件はありません。
実務上のポイントは次の3点です。
- 意見聴取は、健康診断が行われた日から3か月以内に行う(労働安全衛生規則第51条の2第1項第1号)
- 聴取した医師の意見を健康診断個人票に記載する(同項第2号)
- 医師から業務に関する情報を求められたときは、速やかに提供する(同条第3項)
そのうえで、必要と認めるときは就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講じます(安衛法66条の5)。
健診機関の「要再検査」判定と、産業医の「就業上の意見」は別物です。前者は医学的な検査の判定、後者は「その仕事を今のまま続けてよいか」の判断です。
場面2:長時間労働者から面接の申出があったとき
時間外・休日労働が1か月あたり80時間を超え、かつ疲労の蓄積が認められる労働者から申出があった場合、事業者は医師による面接指導を行わなければなりません(安衛法66条の8、労働安全衛生規則第52条の2第1項)。
あわせて、事業者は毎月1回以上一定の期日を定めて時間を算定し、月80時間を超えた労働者に対しては、その超えた時間に関する情報を通知しなければなりません(同条第2項・第3項)。
こちらも人数要件はありません。従業員10人の会社でも、要件に該当すれば義務が生じます。
場面3:メンタル不調の相談・休職や復職の判断が必要なとき
場面1・2に当たらない労働者でも、健康への配慮が必要な者については、必要な措置を講ずるよう努めなければなりません(安衛法66条の9)。
実務では、次のような場面がここに入ります。
- 従業員から不調の相談があった、あるいは診断書が提出された
- 休職から復職するにあたり、就業可否や必要な配慮を判断したい
- 治療をしながら働く従業員への配慮を検討したい
主治医の診断書は治療の観点で書かれるため、「その会社のその業務に就けるか」までは書かれていないことがあります。就業区分(通常勤務/就業制限/要休業)の観点で意見を述べるのが産業医の役割です。
なお、厚生労働省「令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)」によると、傷病を抱えた労働者が治療と仕事を両立できるような取組がある事業所の割合は、10〜29人規模で37.2%、30〜49人規模で47.8%でした(第10表)。
場面4:ストレスチェックと高ストレス者の面接指導(2028年4月から)
令和10年(2028年)4月1日から、ストレスチェックの実施義務が従業員50人未満の事業場にも拡大されます(令和8年政令第195号)。
このとき必要になるのは、次の2つです。
- 年1回のストレスチェックの実施体制(50人未満はプライバシー保護の観点から外部機関への委託が原則推奨とされています)
- 高ストレスの要件に該当する労働者から申出があったときの、医師による面接指導(安衛法66条の10第3項)
産業医の選任義務は拡大されません。必要なのは「実施できる体制」と「医師による面接指導ができる体制」の2つです。
4つの場面を1枚に整理する
| 場面 | 根拠 | 区分 | 人数要件 | 誰が対応するか |
|---|---|---|---|---|
| 健診の有所見者への意見聴取 | 安衛法66条の4/安衛則51条の2 | 義務 | なし | 医師(歯科健診は歯科医師) |
| 長時間労働者の面接指導 | 安衛法66条の8/安衛則52条の2 | 義務 | なし | 医師 |
| 健康への配慮が必要な労働者への措置 | 安衛法66条の9 | 努力義務 | なし | 医師等 |
| 高ストレス者の面接指導 | 安衛法66条の10第3項 | 義務(50人未満は2028年4月から) | 現在は50人以上 | 医師 |
あわせて、常時10人以上50人未満の労働者を使用する事業場では、安全衛生推進者または衛生推進者の選任が必要です(安衛法12条の2、労働安全衛生規則第12条の2)。こちらは医師である必要はありません。
産業医と契約していない会社の備え方
選択肢1:地域産業保健センター(地さんぽ)を使う
従業員50人未満の事業場を対象に、長時間労働者・高ストレス者への医師の面接指導や、健診有所見者への健康相談などを無料で利用できます。まずは無料でできる範囲を確認するのが出発点です。ただし回数・範囲・日程には制限があります。
選択肢2:単発のオンライン面談(スポット面談)で窓口を確保する
相談の発生頻度が読めない会社には、必要なときだけ1回単位で依頼する方法があります。当社の場合は基本料金2万円(業務時間30分まで・税別)から、簡易所見書のPDF付きで対応しています。
選択肢3:月次の契約(オンライン産業保健サービス)を結ぶ
相談が定常的に発生する、あるいは2028年に向けて体制を整えたい会社は、月額契約のほうが結果的に扱いやすくなります。オンライン産業保健サービスは月3万円〜(税別)が目安です。
なお、法定の面接指導を行った場合、その記録を作成し5年間保存するのは事業者の義務です(労働安全衛生規則第52条の6、第52条の18)。外部の医師に依頼する場合も、保存自体は会社側で行う必要があります。
▶ 場面1〜3の医師面談は「スポット面談」、場面4は「ストレスチェック」、日常の相談窓口は「オンライン産業保健サービス」で対応しています。
よくある質問
Q1. 50人未満なら産業医は選任しなくてよいのですか?
A1. 選任義務はありません(安衛法13条1項、安衛令5条)。ただし、医師等に健康管理等の全部または一部を行わせるよう努める義務があります(同法13条の2)。
Q2. 健診の「医師の意見聴取」は健診機関の判定で代替できますか?
A2. できません。健診機関の判定は検査結果に対する医学的判定で、安衛法66条の4が求めているのは、就業上の措置についての医師の意見です。健康診断個人票への記載も必要です。
Q3. 長時間労働者の面接指導は、何人の会社から必要ですか?
A3. 人数要件はありません。要件(月80時間超+疲労の蓄積+本人の申出)に該当すれば、事業場の規模にかかわらず義務です。
Q4. 2028年から50人未満でも産業医が必要になるのですか?
A4. いいえ。義務化されるのはストレスチェックの実施であり、産業医の選任義務は拡大されません。必要なのは実施体制と、申出があった場合の医師による面接指導の体制です。
Q5. 費用をかけずに始めることはできますか?
A5. まずは地域産業保健センター(地さんぽ)の無料支援で対応できる範囲を確認してください。回数・範囲・日程の制約で足りない部分を、単発面談や月額契約で補う形が現実的です。
まとめ
産業医の選任義務がないことと、医師の対応が要らないことはイコールではありません。健診の意見聴取と長時間労働者の面接指導は、人数にかかわらず義務です。さらに2028年4月からはストレスチェックが加わります。無料の公的窓口・単発面談・月額契約を組み合わせ、「必要になったときに医師に相談できる状態」を先に作っておくことをおすすめします。
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参考・出典:労働安全衛生法第12条の2・第13条・第13条の2・第66条の4・第66条の5・第66条の8・第66条の9・第66条の10/労働安全衛生法施行令第5条/労働安全衛生規則第12条の2・第51条の2・第52条の2・第52条の6・第52条の18(e-Gov法令検索)/「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」(令和8年政令第195号)/厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)/厚生労働省「令和3年 労働安全衛生調査(実態調査)結果の概要【事業所調査】」第10表/地域産業保健センター(こころの耳・厚生労働省)
本記事に記載の法令・通達は、2026年9月16日時点の内容を確認しています。法令・通達は改正されることがありますので、実務では最新の原文をご確認ください。

