この記事の要点
安衛法68条の2は努力義務、健康増進法は義務。一般の事務所や工場は第二種施設で原則屋内禁煙です。喫煙専用室の技術的基準(気流0.2m毎秒以上・区画・屋外排気)、標識2種、加熱式たばこの扱い、20歳未満の立入禁止、求人票への明示まで、条文とガイドラインの原文から整理しました。

執筆・監修:小正 晃裕(医師・日本医師会認定産業医。詳しいプロフィールは記事末尾)|最終更新日:2026年10月19日

「うちは分煙しているから大丈夫でしょうか」「喫煙室は残してよいのですか」——産業医として入ると、この質問をよく受けます。

答えに迷いが生じるのは、2つの法律が、別々の強さで同じ問題に関わっているからです。

  • 労働安全衛生法は、事業者に努力義務を課しています
  • 健康増進法は、施設の管理権原者に義務を課し、違反には過料の定めがあります

この2つを混ぜたまま調べると、「結局うちは何をすればよいのか」が見えません。

この記事では、条文を並べて2つを分け、そのうえで自社の施設が何にあたり、何をすればよいのかを整理します。

この記事でわかること

  • 安衛法は努力義務、健康増進法は義務——2つの法律の役割の違い
  • 自社が第一種施設・第二種施設・喫煙目的施設のどれにあたるか
  • 「屋内」の定義(屋根と側壁で決まります)
  • 喫煙専用室を置く場合の技術的基準3つと標識2種
  • 加熱式たばこ(指定たばこ専用喫煙室)の扱い
  • 業務車両・屋外喫煙所・清掃作業での注意点
  • 衛生委員会での扱い方と、求人票に書く義務

「うちの喫煙室はこのままでよいのか」という方へ(この記事の執筆元)

筆者は現役の医師・産業医です。株式会社MeIXでは、職場巡視での喫煙場所の確認、衛生委員会での審議資料づくり、従業員からの相談対応までお手伝いしています。産業医との契約がない会社でも、1回からご利用いただけます。→ お問い合わせフォームはこちら(メールでお返事します)

1. 結論:役割が違う2つの法律です

先に結論を3つ。

#結論
1労働安全衛生法68条の2は「努めるものとする」=努力義務。罰則はありません
2健康増進法は「してはならない」=義務。違反には過料の定めがあります
3一般の事務所や工場は「第二種施設」で、原則屋内禁煙です。喫煙室を置くなら技術的基準を満たす必要があります

条文を並べてみます

まず労働安全衛生法。

事業者は、室内又はこれに準ずる環境における労働者の受動喫煙(健康増進法(平成十四年法律第百三号)第二十八条第三号に規定する受動喫煙をいう。)を防止するため、当該事業者及び事業場の実情に応じ適切な措置を講ずるよう努めるものとする。

(労働安全衛生法 第68条の2)

「努めるものとする」です。 そして注目すべきは、受動喫煙の定義を健康増進法から借りている点です。2つの法律は、最初からつながっています。

次に健康増進法。

何人も、正当な理由がなくて、特定施設等においては、次の各号に掲げる特定施設等の区分に応じ、当該特定施設等の当該各号に定める場所(以下この節において「喫煙禁止場所」という。)で喫煙をしてはならない。

(健康増進法 第29条第1項)

「してはならない」です。 しかも主語は「何人も」——従業員でも、来客でも、社長でも同じです。

目的が違うから、強さが違います

厚生労働省のガイドラインが、両者の関係を明快に書いています。

改正法は、国民の健康の向上を目的として、多数の者が利用する施設等の管理権原者等に、当該多数の者の望まない受動喫煙を防止するための措置義務を課すものである。一方、安衛法は、職場における労働者の安全と健康の保護を目的として、事業者に、屋内における当該労働者の受動喫煙を防止するための措置について努力義務を課すものである。

(職場における受動喫煙防止のためのガイドライン・令和元年7月1日 基発0701第1号)

実務では、健康増進法の義務をまず満たし、そのうえで安衛法の努力義務として「自社の労働者にとってどうか」を上乗せして考えるという順番になります。

事業者と管理権原者が違う場合

テナントに入っている会社では、ここが問題になります。

なお、事業者と管理権原者が異なる場合、当該事業者は、本ガイドラインに基づく対応に当たり、健康増進法の規定が遵守されるよう、管理権原者と連携を図る必要がある。

ビルの所有者・管理会社と話をする必要があるということです。「うちはテナントだから関係ない」とはなりません。

2. 自社の施設はどの類型か

健康増進法は、施設を3つに分けています。

類型中身原則
第一種施設学校、病院、児童福祉施設など、受動喫煙により健康を損なうおそれが高い者が主として利用する施設/国および地方公共団体の行政機関の庁舎原則敷地内禁煙
第二種施設第一種施設および喫煙目的施設以外の施設。一般の事務所や工場、飲食店等も含まれます原則屋内禁煙
喫煙目的施設公衆喫煙所/喫煙を主たる目的とするバー・スナック等/店内で喫煙可能なたばこ販売店喫煙目的室で喫煙可

ほとんどの会社は「第二種施設」です。 ガイドラインが「一般の事務所や工場、飲食店等も含まれる」と明記しています。

「屋内」の定義は屋根と側壁で決まります

ここは知らないと判断できません。

「屋内」とは、外気の流入が妨げられる場所として、屋根がある建物であって、かつ、側壁がおおむね半分以上覆われているものの内部を指し、これに該当しないものは「屋外」となること。

判断の軸は2つです。

  1. 屋根があるか
  2. 側壁がおおむね半分以上覆われているか

両方を満たせば「屋内」です。屋根だけの喫煙所、壁が半分未満の喫煙スペースは「屋外」になります。

第二種施設で喫煙できる場所

第29条1項2号が定めています。

第二種施設——次に掲げる場所以外の屋内の場所

イ 第三十三条第三項第一号に規定する喫煙専用室の場所

ロ 喫煙関連研究場所

つまり、喫煙専用室(と、たばこの研究開発を行う場所)以外の屋内はすべて喫煙禁止場所です。

第一種施設にあたる場合(病院・学校・行政機関など)

自社が病院、診療所、学校、児童福祉施設などを運営している場合は第一種施設になり、原則敷地内禁煙です。屋内だけでなく敷地全体が対象になる点が、第二種施設と大きく違います。

例外として「特定屋外喫煙場所」を置くことはできますが、要件は3つあります。

(1) 喫煙をすることができる場所が区画されていること。

「区画」とは、喫煙場所と非喫煙場所を明確に区別することができるものである必要があり、例えばパーテーション等による区画が考えられること。

(2) 喫煙をすることができる場所である旨を記載した標識を掲示すること。

(3) 第一種施設を利用する者が通常立ち入らない場所に設置すること。

3つ目の「通常立ち入らない場所」には、ガイドラインの説明があります。

例えば建物の裏や屋上など、喫煙のために立ち入る場合以外には通常、当該施設の利用者(労働者を含む)が立ち入ることのない場所をいうこと。

「利用者(労働者を含む)」という括弧書きが効いています。従業員の通り道になっている場所は使えません。

喫煙目的施設にあたるのは限られた業態です

「喫煙目的施設」は、ガイドラインで次の3つに限定されています。

類型要件
公衆喫煙所施設の屋内の場所の全部を、専ら喫煙をする場所とするもの
喫煙を主たる目的とするバー、スナック等たばこの対面販売をしており、屋内で喫煙する場所を提供することを主たる目的とし、併せて設備を設けて客に飲食をさせる営業(「通常主食と認められる食事」を主として提供するものを除く)を行う事業場
店内で喫煙可能なたばこ販売店たばこまたは専ら喫煙の用に供するための器具の販売(たばこは対面販売に限る)をし、屋内で喫煙をする場所を提供することを主たる目的とする事業場(設備を設けて客に飲食をさせる営業を行うものを除く)

「たばこの対面販売をしている」ことが要件に入っている点が、実務上の分かれ目になります。

飲食店を営んでいる場合の例外

会社が飲食店を経営している場合、既存特定飲食提供施設という区分があります。次の3つをすべて満たす場合です。

要件内容
時期令和2年4月1日時点で営業している飲食店であること
規模(資本)個人または資本金5,000万円以下の会社が経営していること(一の大規模会社が発行済株式の総数の2分の1以上を有する場合などを除く)
規模(面積)客席面積が100平方メートル以下であること

該当すれば「喫煙可能室」を置けますが、要件を証する書類の備付けと、保健所への届出が必要です。ガイドラインは、事業者がそれらの実施を管理権原者に確認することを求めています。

3. 喫煙専用室を置く場合に満たすこと

技術的基準は3つだけです

健康増進法施行規則16条1項が定めています。

一 出入口において、室外から室内に流入する空気の気流が、〇・二メートル毎秒以上であること。

二 たばこの煙が室内から室外に流出しないよう、壁、天井等によって区画されていること。

三 たばこの煙が屋外又は外部の場所に排気されていること。

この3つを全部満たす必要があります。 「パーテーションで仕切って空気清浄機を置いた」では、二と三を満たしません。

なお、フロア単位で喫煙可とする場合は別の基準があります(同条2項)。複数階の建物で1つ以上の階の全部を喫煙可とする場合は、階から階へ煙が流出しないよう壁・天井等で区画することに置き換わります。

標識は2種類、掲示場所も別です

第33条2項・3項が求めています。

標識掲示場所記載事項
喫煙専用室標識喫煙専用室の出入口の見やすい箇所①専ら喫煙をすることができる場所である旨 ②20歳未満の者の立入りが禁止されている旨
喫煙専用室設置施設等標識施設の主たる出入口の見やすい箇所喫煙専用室が設置されている旨

建物の入口にも掲示が要るという点を見落としがちです。

撤去したときの除去義務もあります。 喫煙専用室をやめるときは標識を外さなければなりません(同条6項・7項)。

維持義務があります

喫煙専用室設置施設等の管理権原者は、当該喫煙専用室設置施設等の喫煙専用室の構造及び設備を第一項の厚生労働省令で定める技術的基準に適合するように維持しなければならない。

(健康増進法 第33条第4項)

作ったときだけ基準を満たせばよい、ではありません。 排気装置の性能は経年で落ちます。ガイドラインはメンテナンスの頻度の目安も示しています。

機器頻度の目安
屋外排気装置おおむね1年に1回程度
脱煙装置おおむね3か月に1回程度(フィルターの詰まりで性能が急激に低下するため)

20歳未満は立ち入らせてはいけません

喫煙専用室設置施設等の管理権原者等は、二十歳未満の者を当該喫煙専用室設置施設等の喫煙専用室に立ち入らせてはならない。

(健康増進法 第33条第5項)

ガイドラインは、これを労務管理の問題として具体化しています。

20歳未満の労働者を喫煙専用室等に案内してはならないことはもちろん、20歳未満の労働者を喫煙専用室等に立ち入らせて業務を行わせないようにすること(喫煙専用室等の清掃作業も含まれる。)

清掃も業務です。 「掃除だから少しだけ」は認められません。

喫煙専用室では飲食できません

専ら喫煙をする用途で使用されるものであることから、喫煙専用室内で飲食等を行うことは認められないこと。

備品についても記載があります。

備品を設置する場合は必要最低限とし、出入口から喫煙専用室内への気流を妨げないような構造や配置とすることが効果的であること。なお、専ら喫煙の用途で使用することから、喫煙以外の用途で使用するものを設置することは認められないこと。

器具・設備を置くこと自体が禁止されています

特定施設等の管理権原者等は、当該特定施設等の喫煙禁止場所に専ら喫煙の用に供させるための器具及び設備を喫煙の用に供することができる状態で設置してはならない。

(健康増進法 第30条第1項)

灰皿を置きっぱなしにしない、ということです。喫煙禁止場所に灰皿があれば、それ自体が問題になります。

過料の定めがあります

法には次の定めがあります。

次の各号のいずれかに該当する者は、五十万円以下の過料に処する。

一 第三十二条第三項、第三十四条第三項又は第三十六条第四項の規定に基づく命令に違反した者

二 第三十三条第三項、第三十五条第三項又は第三十七条の規定に違反した者

(健康増進法 第76条)

第33条3項は、施設の主たる出入口への標識掲示です。掲示を怠ると過料の対象になり得ます。

また、喫煙禁止場所で喫煙している者に対しては、都道府県知事が喫煙の中止または退出を命ずることができます(第29条2項)。

個別の事案がどう扱われるかは行政の判断になりますので、具体的なご懸念は所轄の保健所にご確認ください。

4. 加熱式たばこはどうなるのか

加熱式たばこは「指定たばこ」として、別の枠組みが用意されています。

「指定たばこ専用喫煙室」とは、第二種施設等の屋内又は内部の場所の一部の場所であって、構造及び設備がその室外の場所への指定たばこ(加熱式たばこをいう。)の煙の流出を防止するための技術的基準に適合した室を、指定たばこのみ喫煙をすることができる場所として定めたものをいうこと。

指定たばこ専用喫煙室内では、飲食等を行うことが認められていること。

喫煙専用室との違い

喫煙専用室指定たばこ専用喫煙室
吸えるものたばこ全般加熱式たばこのみ
飲食不可可
技術的基準同じ3要件同じ3要件
20歳未満の立入り禁止禁止
標識喫煙専用室標識+施設等標識指定たばこ専用喫煙室標識+施設等標識
広告・宣伝時の明示—設置施設である旨を明らかにする義務あり

「加熱式だから規制の外」ではありません。 技術的基準も20歳未満の立入禁止も同じです。違うのは、飲食ができることと、広告時の明示義務がある点です。

ガイドラインは、事業者への配慮も求めています。

事業者は、受動喫煙を望まない者が指定たばこ専用喫煙室において業務や飲食を避けることができるよう配慮すること。

5. 屋外喫煙所・業務車両・来客対応

屋外喫煙所

第二種施設では、屋外は法の規制の対象外です(「屋内」の定義に当たらないため)。ただし、ガイドラインは設置場所について実務的な注意を挙げています。

開放系(屋根のみ、または屋根と一部の囲い)の場合

建物の出入口や窓、吸気口、人の往来が多い区域(例:通路や非喫煙者も使う休憩場所)から可能な限り離して設置すると効果的であること。

比較的風向きが安定している場所があれば、当該場所のうち直近の建物出入口等から見て風下側へ設置すること。

建物の軒下や壁際に設置する場合には、屋根や壁をつたって建物内にたばこの煙が流入する可能性を十分に考慮すること。

建物のすぐ外に灰皿を置いている会社は多いですが、そこが出入口や吸気口の近くだと、煙は屋内に入ります。

業務車両

車両については、喫煙者側の配慮義務が根拠になります。

何人も、特定施設等の喫煙禁止場所以外の場所において喫煙をする際、望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況に配慮しなければならない。

(健康増進法 第27条第1項)

ガイドラインはこれを受けて、こう書いています。

営業や配達等の業務で使用する車両内などであっても、健康増進法において喫煙者に配慮義務が課せられていることを踏まえ、喫煙者に対し、望まない受動喫煙を防止するため、同乗者の意向に配慮するよう周知すること。

社用車の相乗りは、実務で相談の多い場面です。 ルールを作っていない会社では、言い出しにくさが残ります。

喫煙可能な場所の清掃

喫煙専用室等の清掃作業は、室内に喫煙者がいない状態で、換気により室内のたばこの煙を排出した後に行うこと。やむを得ず室内のたばこの煙の濃度が高い状態で清掃作業を行わなければならない場合には、呼吸用保護具の着用等により、有害物質の吸入を防ぐ対策をとること。

清掃は「誰かがやる業務」です。 20歳未満は不可、濃度が高い状態なら保護具、という2点は押さえておく必要があります。

適用除外の場所でも配慮が必要です

事業者は、健康増進法において適用除外の場所となっている宿泊施設の客室(個室に限る。)や職員寮の個室、特別養護老人ホーム・有料老人ホームなどの入居施設の個室、業務車両内等についても、望まない受動喫煙を防止するため、20歳未満の者が喫煙可能な場所に立ち入らないよう措置を講じること。

6. 従業員から相談を受けたときに考えること

「喫煙室の近くが席で、においが気になる」

ガイドラインは、勤務の設計そのものを配慮事項として挙げています。

望まない受動喫煙を防止するため、勤務シフトや業務分担を工夫すること。また、受動喫煙を望まない労働者が喫煙区域に立ち入る必要のないよう、禁煙フロアと喫煙フロアを分けることや喫煙区域を通らないような動線の工夫等について配慮すること。

席替えや動線の変更は、設備投資なしでできる対策です。まずここから検討できます。

「妊娠中なのですが」

特別な配慮の対象として明記されています。

事業者は、妊娠している労働者や呼吸器・循環器等に疾患を持つ労働者、がん等の疾病を治療しながら就業する労働者、化学物質に過敏な労働者など、受動喫煙による健康への影響を一層受けやすい懸念がある者に対して、(中略)これらの者への受動喫煙を防止するため、特に配慮を行うこと。

妊娠中の労働者だけでなく、呼吸器・循環器疾患のある人、治療と仕事を両立している人も対象です。

なお、健康情報の取扱いには別のルールがあります。 誰が妊娠しているか、どんな疾患があるかは配慮を要する情報です。健康診断の結果は誰が見てよいかもあわせてご覧ください。

「喫煙室に行く時間は労働時間ですか」

これは労働時間の問題で、健康増進法や安衛法の受動喫煙の規定が答えを出すものではありません。 就業規則や実際の指揮命令の状況によります。判断に迷われる場合は、社会保険労務士や弁護士にご相談ください。

7. 喫煙禁止場所で吸っている人がいたら

現場でいちばん困る場面です。 条文は、次のように役割を分けています。

誰が何を強さ
管理権原者等喫煙禁止場所で喫煙をし、または喫煙をしようとする者に対し、喫煙の中止または退出を求める努力義務(健康増進法30条2項)
管理権原者等喫煙禁止場所に、喫煙用の器具・設備を喫煙できる状態で設置しない義務(同条1項)
都道府県知事違反して喫煙している者に、喫煙の中止または退出を命ずる命令(同法29条2項)

条文はこうです。

特定施設の管理権原者等は、当該特定施設の喫煙禁止場所において、喫煙をし、又は喫煙をしようとする者に対し、喫煙の中止又は当該喫煙禁止場所からの退出を求めるよう努めなければならない。

(健康増進法 第30条第2項)

「求めるよう努めなければならない」=努力義務です。 ただし、声をかけるのは会社側の役割として想定されていることが読み取れます。

そして、そもそも器具・設備を置かないことは義務です(同条1項)。灰皿を撤去し、標識を掲示しておけば、声をかける場面そのものが減ります。順番としては、設備と表示を先に整えるほうが現実的です。

8. 全面禁煙にするか、喫煙室を残すか

どちらを選ぶかは各社の判断です。 ただ、判断材料は整理できます。

屋内全面禁煙(屋外喫煙所も置かない)喫煙専用室を設置・維持
初期費用かからない区画・排気設備の工事が必要
維持義務なし技術的基準に適合するよう維持(法33条4項)。排気装置は年1回程度、脱煙装置は3か月に1回程度のメンテナンスが望ましい
標識不要2種類の掲示が必要。撤去時は除去も必要
20歳未満の労働者制約なし立入禁止(清掃を含む)
求人票への明示「屋内を全面禁煙としている」「喫煙専用室等を設けている」
助成屋外喫煙所(閉鎖系)を設ける場合は経費の一部に助成あり同左

見落とされやすいのは「維持義務」です。 設置すれば終わりではなく、基準に適合し続ける責任が発生します。メンテナンスの費用と手間も継続して発生します。

逆に、全面禁煙にすると建物の外に喫煙者が出ます。 建物の出入口や吸気口の近くに人が集まると、煙は屋内に入ってきます。「全面禁煙にしたのに、かえって入口のにおいが気になるようになった」という相談は実際にあります。 屋外の喫煙場所をどこに置くかは、あわせて考える必要があります。

どちらを選ぶ場合も、衛生委員会等で審議し、労働者の意見を把握したうえで決めることが、ガイドラインの求める進め方です。

9. 衛生委員会での扱い方

ガイドラインは、受動喫煙防止対策を組織的に進めることを求めています。

事業者は衛生委員会、安全衛生委員会等の場を通じて、労働者の受動喫煙防止対策についての意識・意見を十分に把握し、事業場の実情を把握した上で、各々の事業場における適切な措置を決定すること。

組織的に進める4つの柱

#柱内容
1推進計画の策定将来達成する目標と達成時期、そのために講じる措置や活動。安全衛生に係る計画や衛生教育の実施計画に項目を盛り込む方法も可。策定の際は事業者が参画し、衛生委員会等で十分に検討
2担当部署の指定相談対応、定期的な把握・分析・評価、問題のある職場への改善指導。評価結果は経営幹部や衛生委員会等に適宜報告
3労働者の健康管理等受動喫煙防止対策の状況を衛生委員会等の調査審議事項とする。また産業医の職場巡視に当たり、受動喫煙防止対策の実施状況に留意する
4意識の高揚・情報の提供健康への影響、講じた措置の内容、健康増進法の趣旨等に関する教育や相談対応

3つ目に産業医の職場巡視が明記されている点は、産業医契約のある会社では押さえておく価値があります。職場巡視の記事もあわせてご覧ください。

求人票への明示が求められています

見落とされやすい項目です。

事業者は、労働者の募集及び求人の申込みに当たっては、就業の場所における受動喫煙を防止するための措置に関する事項を明示すること。

明示する内容としては、例えば以下のような事項が考えられること。

・施設の敷地内又は屋内を全面禁煙としていること。

・施設の敷地内又は屋内を原則禁煙とし、特定屋外喫煙場所や喫煙専用室等を設けていること。

・施設の屋内で喫煙が可能であること。

「屋内で喫煙が可能」であることも、明示すべき内容として挙がっています。 採用の場面で受動喫煙の状況を伝える、という設計です。

10. 50人未満の会社での進め方

衛生委員会の設置義務がない会社では、どこから手を付ければよいでしょうか。

最小構成で始める4ステップ

#やることポイント
1自社の施設類型を確定するほとんどの会社は第二種施設=原則屋内禁煙
2「屋内」がどこまでかを確定する屋根があり、側壁がおおむね半分以上覆われているかで判断
3喫煙場所の現状を確認する屋内に喫煙室があるなら、気流0.2m毎秒以上・壁天井等で区画・屋外排気の3点と、標識2種を確認。喫煙禁止場所に灰皿が残っていないかも
420歳未満の労働者の業務を確認する喫煙室への立入り(清掃を含む)がないか

費用の支援があります

ガイドラインは、助成制度と相談窓口を案内しています。

内容問合せ先
助成金に関する事項事業場の所在地を所管する都道府県労働局 労働基準部 健康主務課
受動喫煙防止対策の技術的な相談厚生労働省ホームページで最新の問合せ先を確認
たばこの煙の濃度等の測定機器の無料貸出し同上

測定機器を無料で借りられるという点は、あまり知られていません。「うちの喫煙室は基準を満たしているのか」を確かめたいときに使えます。

屋内を全面禁煙にして屋外喫煙所(閉鎖系に限る)を設ける場合の経費についても、一部の助成を受けられるとされています。

屋外排気が難しい場合の経過措置

古い建物では、喫煙室から屋外に排気できないことがあります。経過措置が用意されています。

施行時点で既に存在している建築物等であって、管理権原者の責めに帰することができない事由によって、喫煙専用室の屋外排気が困難な場合にあっては、(中略)次に掲げる要件を満たす機能を有した脱煙機能付き喫煙ブースを設置すること。

・扉を開放した状態の開口面において喫煙専用室内に向かう気流0.2メートル毎秒以上が確保されていること。

・総揮発性有機化合物の除去率が95%以上であること。

・当該装置により浄化され、室外に排気される空気における浮遊粉じんの量が0.015mg/立方メートル以下であること。

数値要件がはっきりしているので、製品を選ぶときの基準になります。

11. 喫煙室を作るときの設計上のコツ

ガイドラインの別紙2には、実務的な工夫が並んでいます。抜粋します。

設置場所

就業する場所や人の往来が多い区域から適当な距離をとることが効果的であること。

また、中央管理方式の空気調和設備を採用している建物にあっては、当該設備の吸気口がある区域に喫煙専用室を設置すると、当該設備を通じて建物全体にたばこの煙が拡散する可能性が高いため、これを避けること。

空調の吸気口の近くは避ける。 これは設計段階で見落とすと取り返しがつきません。

構造

工夫効果
清掃が容易な壁材ヤニの付着があるため、維持管理がしやすい
屋内側の壁に窓を設ける火災予防対策や労務管理が容易になる
出入口にのれん等開口面積を狭めると、より少ない換気量で一定以上の気流を確保できる
スライド式の扉開閉時に空気が乱れにくい
長方形にして、出入口と排気装置を相対する短辺側に室内の効率的な換気が可能になる

利用者への周知

ア 喫煙専用室内にたばこの煙が拡散すると排出効率が悪くなるため、可能な限り屋外排気装置の近くで喫煙すること。

イ 同時に喫煙可能な人数の目安を遵守すること。

ウ 入退出時はたばこの煙が漏えいしやすいため、可能な限りゆっくり入退出すること。

エ 喫煙終了後は速やかにたばこの火を消すこと。

オ 喫煙専用室の清掃中やメンテナンス中は喫煙しないこと。

「同時に喫煙可能な人数の目安」を決めておくという発想は、多くの会社にありません。ガイドラインは、屋外排気量から人数の目安を設定することを求めています。

よくある質問

Q. 喫煙室を撤去せずに残しておいても違法ではありませんか

第二種施設では、技術的基準を満たす喫煙専用室であれば設置できます。 ただし、①気流0.2メートル毎秒以上 ②壁・天井等による区画 ③屋外排気の3つを満たし、標識を2か所(室の出入口と施設の主たる出入口)に掲示し、20歳未満を立ち入らせないことが必要です。また、基準に適合するよう維持する義務もあります(健康増進法33条4項)。

Q. 空気清浄機を置けば喫煙室として認められますか

技術的基準は「たばこの煙が屋外又は外部の場所に排気されていること」を求めています。 室内で浄化して戻す方式は、原則としてこの要件を満たしません。ただし、施行時点で既に存在する建物で、管理権原者の責めに帰することができない事由により屋外排気が困難な場合には、脱煙機能付き喫煙ブースの経過措置があります(総揮発性有機化合物の除去率95%以上、浮遊粉じん0.015mg/立方メートル以下など)。

Q. 加熱式たばこなら屋内で吸ってよいですか

いいえ。 加熱式たばこ(指定たばこ)も規制の対象です。屋内で吸えるのは、技術的基準を満たした指定たばこ専用喫煙室の中だけです。飲食ができる点と広告・宣伝時に設置施設である旨を明示する義務がある点が、喫煙専用室と異なります。

Q. 20歳未満のアルバイトに喫煙室の掃除を頼めますか

頼めません。 ガイドラインは「20歳未満の労働者を喫煙専用室等に立ち入らせて業務を行わせないようにすること(喫煙専用室等の清掃作業も含まれる)」と明記しています。

Q. 社用車の中でたばこを吸うのは禁止できますか

健康増進法は、喫煙をする際に「望まない受動喫煙を生じさせることがないよう周囲の状況に配慮しなければならない」と定めています(27条1項)。ガイドラインも、業務車両について同乗者の意向に配慮するよう周知することを求めています。社内ルールとしてどこまで定めるかは各社の判断になりますが、衛生委員会等で審議して決めるのが筋の通った進め方です。

Q. 病院や学校を運営しています。敷地内に喫煙場所を置けますか

第一種施設は原則敷地内禁煙ですが、特定屋外喫煙場所を置くことはできます。要件は3つで、①区画されていること ②喫煙可能な場所である旨の標識を掲示すること ③施設を利用する者(労働者を含む)が通常立ち入らない場所に設置することです。ガイドラインは「建物の裏や屋上など」を例示しています。

Q. テナントビルに入っています。ビル側に任せておけばよいですか

いいえ。 ガイドラインは「事業者と管理権原者が異なる場合、当該事業者は、健康増進法の規定が遵守されるよう、管理権原者と連携を図る必要がある」としています。ビルの管理会社と、喫煙場所の位置・標識・技術的基準について確認しておく必要があります。

Q. 求人票に受動喫煙のことを書く必要がありますか

ガイドラインが明示を求めています。 「敷地内・屋内を全面禁煙」「原則禁煙で特定屋外喫煙場所や喫煙専用室等を設けている」「屋内で喫煙が可能である」といった内容が例示されています。

まとめ

#押さえるところ
1安衛法68条の2は努力義務、健康増進法は義務。まず健康増進法を満たし、そのうえで安衛法の努力義務を上乗せする
2一般の事務所や工場は第二種施設=原則屋内禁煙
3「屋内」は、屋根があり側壁がおおむね半分以上覆われているものの内部
4喫煙専用室の技術的基準は気流0.2m毎秒以上・壁天井等で区画・屋外排気の3つ
5標識は2種類。室の出入口と、施設の主たる出入口の両方に
620歳未満は立入禁止。清掃作業も含みます
7加熱式たばこも規制対象。違うのは飲食可と広告時の明示義務
8受動喫煙防止対策は衛生委員会等の調査審議事項。産業医の職場巡視でも留意する
9求人票への明示が求められている
10測定機器の無料貸出しと助成制度がある

参考・出典

  • 健康増進法(平成14年法律第103号)第27条・第28条・第29条・第30条・第33条・第76条
  • 健康増進法施行規則(平成15年厚生労働省令第86号)第16条
  • 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第68条の2
  • 厚生労働省「職場における受動喫煙防止のためのガイドライン」(令和元年7月1日 基発0701第1号)別紙1・別紙2を含む
  • 健康増進法の一部を改正する法律(平成30年法律第78号)

本記事は2026年9月15日時点の情報に基づいています。 法令・通達は改正されることがありますので、実務では最新の原文をご確認ください。個別の事案の適法性については、所轄の保健所や専門家にご確認ください。