この記事でわかること

  • 産業医になれる人の法令上の要件と、選任してはいけない人
  • 選任の期限・報告・専属が必要になる規模
  • 契約前に確認したい実務のチェックリスト8項目

これから産業医を探す会社の方へ(この記事の執筆元)

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前提1:産業医は「医師であれば誰でも」ではない

労働安全衛生法は、産業医について「労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識について厚生労働省令で定める要件を備えた者でなければならない」と定めています(第13条第2項)。その要件は労働安全衛生規則第14条第2項に5類型が定められています。

  1. 厚生労働大臣の指定する者(法人に限る)が行う研修を修了した者
  2. 産業医科大学その他厚生労働大臣が指定する大学で所定の課程を修めて卒業し、その大学が行う実習を履修した者
  3. 労働衛生コンサルタント試験に合格した者で、試験の区分が保健衛生であるもの
  4. 大学で労働衛生に関する科目を担当する教授・准教授・講師(常時勤務する者に限る)の職にあり、またはあった者
  5. 前各号のほか、厚生労働大臣が定める者

確認すること:契約しようとしている医師が、上記のどれに該当するか。

前提2:選任できない人がいる

労働安全衛生規則第13条第1項第2号は、次の者(事業場の運営について利害関係を有しない者を除く)以外の者から選任するよう定めています。

  • 事業者が法人の場合は、その法人の代表者
  • 事業者が法人でない場合は、事業を営む個人
  • 事業場においてその事業の実施を統括管理する者

つまり、社長や事業場のトップが医師であっても、原則としてその事業場の産業医にはなれません

前提3:期限・人数・報告

項目内容根拠
選任期限選任すべき事由が発生した日から14日以内安衛則13条1項1号
対象常時50人以上の労働者を使用する事業場ごと安衛法13条1項・安衛令5条
専属が必要常時1,000人以上、または一定の有害業務に常時500人以上を従事させる事業場安衛則13条1項3号
2人以上必要常時3,000人を超える事業場安衛則13条1項4号
選任報告選任したときは遅滞なく所轄労働基準監督署長に報告安衛則13条2項

「有害業務」には、深夜業を含む業務、重量物の取扱い等重激な業務、著しい騒音を発する場所における業務なども含まれます。深夜業がある事業場は要注意です。

契約前の実務チェックリスト8項目

1. 対応する事業場の範囲は明確か

産業医は事業場ごとに選任します。複数拠点がある場合、どの事業場を担当するのかを契約で明確にしてください。本社で選任した産業医が、当然に他の拠点も担当できるわけではありません。

2. 職務のどこまでが契約に含まれるか

労働安全衛生規則第14条第1項は産業医の職務として9項目を定めています(健診の実施と事後措置、面接指導、ストレスチェックと高ストレス者面接指導、作業環境の維持管理、作業の管理、健康管理、健康教育・健康相談、衛生教育、健康障害の原因調査と再発防止)。

含まれる/別料金/対象外の切り分けを、見積り段階で文書にしておくと後で揉めません。

3. 職場巡視の頻度と方法

産業医は少なくとも毎月1回作業場等を巡視する義務があります(安衛則15条)。事業者から毎月1回以上、衛生管理者の巡視結果等の情報提供を受け、事業者の同意を得ている場合は、少なくとも2か月に1回とすることができます。

オンライン中心の契約でも、定期巡視は実地で行う必要があるとされています(厚生労働省「情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について」令和3年3月31日付け基発0331第4号)。

4. 面接指導への対応スピード

長時間労働者(安衛法66条の8)や高ストレス者(同66条の10第3項)から申出があった場合、遅滞なく面接指導を行う必要があります。申出から実施までのリードタイムと、繁忙期の対応可否を確認してください。

5. 記録・様式の提供範囲

面接指導結果の記録は事業者が5年間保存する必要があります(安衛則52条の6、52条の18)。医師からどの様式で何が提供されるか(意見書・所見書のフォーマット)を確認しておくと、社内の保存フローが組めます。

6. 健康情報の取り扱いルール

面接指導を実施した医師は、就業上の措置に必要な最小限の情報に限定して事業者に提供する必要があり、診断名・検査値・具体的な愁訴の内容などの生データを提供してはいけません。会社側も求めてはいけません。この線引きを共有できる相手かどうかは重要です。

7. 勧告への向き合い方

産業医は、労働者の健康を確保するため必要があると認めるときは、事業者に対し必要な勧告をすることができ、事業者はその勧告を尊重しなければなりません(安衛法13条5項)。勧告を受けた場合、事業者はその内容等を衛生委員会または安全衛生委員会に報告する義務があります(同6項)。

また、事業者は、産業医が勧告等をしたことを理由として解任その他不利益な取扱いをしてはならないとされています(安衛則14条4項)。

8. 交代・解任時の手続き

産業医が辞任・解任されたときは、遅滞なくその旨と理由を衛生委員会または安全衛生委員会に報告しなければなりません(安衛則13条4項)。また、辞任等があったときは所轄労働基準監督署長への報告も必要です(同5項)。契約書に引き継ぎの取り決めがあるかを確認してください。

50人未満の会社が「選ぶ」場合

選任義務がない50人未満の事業場は、契約の形から選べるのが利点です。

形態費用の目安(税別)向いている場面
地域産業保健センター(地さんぽ)無料まず無料でできる範囲を確認したい
単発のスポット面談1回2万円〜相談の発生が読めない/窓口だけ確保したい
リモート産業医(顧問・嘱託)月3万円〜相談が定常的に発生する/体制を整えたい
訪問嘱託産業医月5万円〜50人到達が見えている/現場を見てほしい

よくある質問

Q1. 産業医は医師なら誰でもなれますか?

A1. なれません。労働安全衛生規則第14条第2項に定める5類型のいずれかに該当する必要があります。

Q2. 社長が医師です。自社の産業医になれますか?

A2. 法人の代表者は、原則としてその事業場の産業医に選任できません(安衛則13条1項2号)。

Q3. いつまでに選任すればよいですか?

A3. 選任すべき事由が発生した日から14日以内です。選任後は遅滞なく所轄労働基準監督署長への報告が必要です。

Q4. 専属産業医が必要になるのはどんな場合ですか?

A4. 常時1,000人以上の労働者を使用する事業場、または一定の有害業務(深夜業を含む業務など)に常時500人以上を従事させる事業場です。

Q5. オンライン中心の契約でも問題ありませんか?

A5. 面談系はオンラインで実施できますが、定期巡視は実地で行う必要があるとされています。50人未満の事業場は巡視義務がないため、オンラインのみで完結させやすい領域です。

まとめ

産業医選びで確認すべきことは、①法令上の要件を満たしているか、②選任できない立場でないか、③期限・専属・報告の要件、④実務8項目の切り分けの4つに整理できます。とくに「どの事業場を担当するか」「職務のどこまでが契約に含まれるか」「申出から面接指導までのリードタイム」は、契約後に問題になりやすいポイントです。

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参考・出典:労働安全衛生法第13条・第66条の8・第66条の10/労働安全衛生法施行令第5条/労働安全衛生規則第13条・第14条・第15条・第52条の6・第52条の18(e-Gov法令検索)/厚生労働省「情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について」(令和3年3月31日付け基発0331第4号)/厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)/地域産業保健センター(こころの耳・厚生労働省)

本記事に記載の法令・通達は、2026年9月16日時点の内容を確認しています。法令・通達は改正されることがありますので、実務では最新の原文をご確認ください。