この記事の要点
オンライン産業医を導入したいが何から手をつければよいか。厚労省通達は衛生委員会等での調査審議と労働者への周知を求めています。決めるべき職務の範囲、情報提供の仕組み、実地確認の余地まで、導入の手順を産業医が整理しました。
執筆・監修:小正 晃裕(医師・日本医師会認定産業医。詳しいプロフィールは記事末尾)|最終更新日:2026年10月19日
この記事でわかること
- 導入前に必ず通らなければならない社内手続き(通達が求めているもの)
- 衛生委員会等で何を決めるのか(職務の範囲・留意事項)
- 50人未満の事業場での代替手段
- そのまま使える社内周知文の例
オンライン産業医の導入を検討中の方へ(この記事の執筆元)
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結論:契約の前に、社内手続きが必要です
オンライン産業医は「契約すれば明日から」という導入の仕方ができません。厚生労働省の通達(令和3年3月31日付け基発0331第4号)が、事業者側に共通事項4点を求めているためです。
| # | 事業者が整えること |
|---|---|
| ア | オンラインで実施する職務の範囲と留意事項について、衛生委員会等で調査審議を行ったうえで、労働者に周知していること |
| イ | 安衛法13条4項に基づき産業医へ情報を提供する際、遠隔で職務を行う産業医に適時・円滑に情報が届く仕組みを構築していること |
| ウ | 産業医が必要と認める場合には、事業場で産業医が実地で作業環境等を確認できる仕組みを構築していること |
| エ | 事業場の周辺の医療機関との連携を図る等、必要な体制を構築していること |
とくにアは、「オンラインでやります」と決めるだけでは足りず、調査審議と周知までがセットである点が見落とされがちです。
ステップ1:オンラインで実施する職務の範囲を決める
まず、どの職務をオンラインにするかを整理します。通達2(3)の整理が判断のベースになります。
オンラインで実施できるもの
- 長時間労働者・高ストレス者への面接指導(医師が対面を要すると判断した場合を除く)
- 健康診断結果に基づく就業判定・意見の提供
- 健康相談、復職面談
- 衛生教育
- 衛生委員会・安全衛生委員会への出席
実地が必要なもの
- 定期巡視(少なくとも毎月1回。安衛則15条の条件を満たす場合は2か月に1回)
- 健康障害の原因調査・再発防止措置(原則)
- 作業環境・作業内容に大きな変更があったときの確認
50人未満の事業場は産業医の選任義務がないため定期巡視も発生せず、必要な職務はすべてオンラインで実施できます。50人以上の事業場は、定期巡視だけ訪問というハイブリッドになります。
ステップ2:衛生委員会等で調査審議する
決めた範囲を、衛生委員会(または安全衛生委員会)にかけます。議事録に残してください。
調査審議しておきたい項目
| # | 項目 | 決めること |
|---|---|---|
| 1 | オンラインで実施する職務の範囲 | ステップ1で整理した内容 |
| 2 | 使用する情報通信機器 | ツール名、接続方法。容易に利用でき、映像・音声が常時安定していること |
| 3 | 個人情報の取扱い | 面談記録・問診票の保存場所、アクセスできる人の範囲 |
| 4 | 面接指導の申出窓口 | 誰にどう申し出るか。外部機関経由にするか |
| 5 | 面談を受ける場所 | 会議室の確保、自宅からの参加可否 |
| 6 | 産業医への情報提供の方法 | 何を、いつ、どう渡すか(ステップ3) |
| 7 | 産業医が実地確認を求めた場合の対応 | 誰が受けて、どう調整するか(ステップ4) |
| 8 | 緊急時の連携先 | 事業場周辺の医療機関 |
3については、通達が踏み込んだ書き方をしています。
労働者の心身の状態に関する情報については、個人データに対するアクセス管理、個人データに対するアクセス記録の保存、ソフトウェアに関する脆弱性対策等の技術的安全管理措置を適切に講じること
「Zoomを使います」だけでは足りず、面談記録をどこに置き、誰が見られるかまで決める必要があります。
50人未満の事業場はどうするか
衛生委員会の設置義務は常時50人以上です(労働安全衛生法第18条)。50人未満の事業場は、次の規定を活用します。
事業者は、安全委員会、衛生委員会又は安全衛生委員会を設けている事業者以外の事業者は、安全又は衛生に関する事項について、関係労働者の意見を聴くための機会を設けるようにしなければならない(労働安全衛生規則第23条の2)
会議体である必要はありません。厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)は、意見を聴く機会の例として定例の業務ミーティング、朝礼などの打合せの場、他の委員会と併せる形、月一回の安全会議などを挙げています。
また、次の進め方も示されています。
事業者としての方針を表明しつつ、社内ルールの案をあらかじめ作成した上で、事業場内に周知し、労働者に意見を募るといった方法も考えられます。
ステップ3:情報提供の仕組みを作る(通達イ)
遠隔で職務を行う産業医は、事業場に来ないぶん、情報が届かないと判断ができません。通達が「適時・円滑に情報が届く仕組み」を求めているのはこのためです。
決めておきたいのは次の3点です。
| # | 決めること | 例 |
|---|---|---|
| 1 | 何を渡すか | 健診結果(有所見者一覧)、長時間労働者の勤務状況、休職・復職の状況、労災の発生状況、作業環境測定の結果 |
| 2 | いつ渡すか | 定例(毎月◯日)と随時(事案発生時) |
| 3 | どう渡すか | 共有ストレージ、暗号化メール、専用システム。誰がアップロードし、誰が閲覧できるか |
面接指導の際は、通達(平成27年9月15日付け基発0915第5号。令和2年11月19日による改正後)により、事業者は医師に労働時間等の勤務の状況及び作業環境等に関する情報を提供しなければならないとされています。これは義務です。
ステップ4:実地確認の余地と、緊急時の体制(通達ウ・エ)
ウ:産業医が「見に行きたい」と言ったときの仕組み
通達は、産業医が必要と認める場合に実地で作業環境等を確認できる仕組みの構築を事業者に求めています。
「オンライン専門なので訪問は一切できません」という契約は、この要件を満たせません。契約時に、産業医が実地確認を求めた場合の対応(可否・費用・日程調整の方法)を確認しておいてください。
産業医の側にも、通達2(4)で次のことが求められています。
産業医はこの趣旨を踏まえ、情報通信機器を用いて遠隔で実施することが適当でないと認める職務については、実地で現場を確認するとともに、(中略)労働者一人ひとりの健康を確保するために必要と認めるときは、事業者に対して、健康管理等に必要な情報を提供するよう求める等、必要な対応を行うことが重要である
エ:周辺医療機関との連携
面接指導の通達も、医師が緊急に対応すべき徴候等を把握した場合の体制整備を求めています。
労働者が面接指導を受けている事業場その他の場所の近隣の医師等と連携して対応したり、その事業場にいる産業保健スタッフが対応する等の緊急時対応体制が整備されていること
面談中に労働者の状態が悪化したとき、誰がどこに連絡するかを決めておく、ということです。自宅から面談を受ける運用にする場合は、その所在地の近隣医療機関も考慮に入れる必要があります。
そのまま使える社内周知文の例
ステップ2で決めた内容を、労働者に周知するための文例です。自社の実情に合わせて調整してください。
従業員の皆さんへ|産業医業務のオンライン実施について
当社では、○年○月より、産業医業務の一部をオンライン(Web会議)で実施します。実施方法について、衛生委員会(※50人未満の事業場は「関係労働者の皆さんからのご意見」)での調査審議を経て、次のとおり定めましたのでお知らせします。
1. オンラインで実施する業務
・長時間労働者、高ストレス者への医師の面接指導
・健康相談、復職に関する面談
・健康診断結果に基づく就業上の措置に関する意見
・衛生委員会への出席
・衛生教育
2. 引き続き産業医が実地で行う業務(※50人以上の事業場のみ)
・職場巡視(毎月◯回)
・健康障害の原因調査が必要な場合の現場確認
3. 使用するツール
・○○○(映像と音声で相互に確認できるものを使用します。音声のみの電話による面接指導は行いません)
4. 面談を受ける場所
・原則として○○会議室をご利用ください。ご自宅からの参加も可能です。いずれの場合も、会話が第三者に聞こえない環境でお願いします。
5. 面接指導の申出先
・○○部○○(内線○○/メール○○)までお申し出ください。
6. 個人情報の取扱い
・面談の内容や記録は、○○に保管し、閲覧できる者を限定します。
・診断名や検査値などの詳しい医学的情報が会社に提供されることはありません。会社が受け取るのは、就業上の措置を検討するために必要な範囲の意見に限られます。
・面接指導を申し出たことや、その結果を理由として、不利益な取扱いを行うことは一切ありません。
7. 面談を受ける時間の取扱い
・業務時間として取り扱います。管理職は、業務時間中に面談を受けられるよう配慮してください。
導入チェックリスト
| # | 項目 | 済 |
|---|---|---|
| 1 | オンラインで実施する職務の範囲を決めた | □ |
| 2 | 衛生委員会等で調査審議し、議事録に残した | □ |
| 3 | 労働者に周知した(掲示・書面交付・イントラ等) | □ |
| 4 | 使用ツールを決め、情報セキュリティを確認した | □ |
| 5 | 面談記録・問診票の保存場所とアクセス権を決めた | □ |
| 6 | 産業医への情報提供の内容・時期・方法を決めた | □ |
| 7 | 産業医が実地確認を求めた場合の対応を契約で確認した | □ |
| 8 | 緊急時の連携先(周辺医療機関)を決めた | □ |
| 9 | 面接指導の申出窓口を決め、周知した | □ |
| 10 | 面談を受ける場所を確保した | □ |
よくある質問
Q1. 衛生委員会の調査審議を飛ばして始めてしまいました。
A1. 通達2(1)アが求める要件を満たしていない状態です。次回の衛生委員会で調査審議し、労働者への周知まで行ってください。遡って無効になるという規定はありませんが、早めに整えるべきです。
Q2. 50人未満で、意見を聴く機会をどう作ればよいか分かりません。
A2. 会議体である必要はありません。定例ミーティングや朝礼の場を使う、社内ルールの案を配布して意見を募る、といった方法が厚労省マニュアルに例示されています。
Q3. 産業医の契約前に社内手続きを済ませる必要がありますか?
A3. 順序の定めはありません。ただし、ステップ2で決める内容の一部(使用ツール、実地確認の可否、緊急時対応)は依頼先によって変わるため、依頼先を絞ってから衛生委員会にかけるほうが実務上スムーズです。
Q4. 導入後に職務の範囲を変えるときは、また調査審議が必要ですか?
A4. 通達は「オンラインで実施する職務の範囲と留意事項」について調査審議と周知を求めています。範囲を変えるなら、改めて調査審議と周知を行うのが筋です。
Q5. 費用はどれくらい変わりますか?
A5. 一般に移動時間・交通費が発生しない分、同じ業務量なら抑えられます。ただし料金体系は依頼先により異なるため、面談回数・衛生委員会出席・報告書作成が基本料金に含まれるかを確認してください。
まとめ
オンライン産業医の導入は、契約の前に社内手続きがあるという点を押さえてください。
- 職務の範囲を決める(実地が必要なものを切り分ける)
- 衛生委員会等で調査審議し、労働者に周知する(50人未満は意見を聴く機会を活用)
- 産業医への情報提供の仕組みを作る
- 実地確認の余地と緊急時の体制を確保する
株式会社MeIXは、全国対応のオンライン産業保健サービス(産業医の選任を伴わない契約)とスポットを提供しています。導入時の社内手続きの設計からご相談いただけます。→ お問い合わせフォームはこちら(メールでお返事します)
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参考・出典:厚生労働省「情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について」(令和3年3月31日付け基発0331第4号)/厚生労働省「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項、第66条の8の2第1項、第66条の8の4第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について」(平成27年9月15日付け基発0915第5号。令和2年11月19日による改正後)/厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)/労働安全衛生法第13条・第18条/労働安全衛生規則第15条・第23条の2(e-Gov法令検索)
本記事に記載の法令・通達は、2026年9月16日時点の内容を確認しています。法令・通達は改正されることがありますので、実務では最新の原文をご確認ください。

