この記事でわかること

  • 産業医の定期巡視が「実地でなければならない」理由と、その義務を負う人
  • 従業員50人未満の事業場では、その定期巡視義務が生じない理由(条文の構成)
  • 50人未満でも人数に関係なく残る医師対応(4つ)と、それがオンラインで足りる理由
  • オンラインで進める場合でも会社側に残る義務

50人未満で産業医対応を検討中の方へ(この記事の執筆元)

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結論:50人未満の事業場では、実地でなければならない職務が制度上発生しません

産業医の職務のうち定期巡視は実地で行う必要がある、というのが厚生労働省の通達(令和3年3月31日付け基発0331第4号)の立場です。ここだけを読むと「オンラインだけの産業医は成り立たない」と感じるかもしれません。

しかし、その定期巡視の義務を負っているのは「選任された産業医」です。そして産業医の選任義務は常時50人以上の事業場にしか課されていません。

したがって、従業員50人未満の事業場では定期巡視の義務がそもそも発生せず、必要になる医師対応はオンラインで実施できるものに限られます。

以下、条文の構成を3ステップで確認します。

ステップ1:定期巡視の義務を負うのは「産業医」

労働安全衛生規則第15条(産業医の定期巡視)は、次のとおり定めています。

産業医は、少なくとも毎月一回(産業医が、事業者から、毎月一回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であつて、事業者の同意を得ているときは、少なくとも二月に一回)作業場等を巡視し、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、労働者の健康障害を防止するため必要な措置を講じなければならない。

主語は「産業医は」です。事業場の規模にかかわらずすべての事業者に課された義務ではなく、選任された産業医が負う職務上の義務です。

そして基発0331第4号は、この定期巡視について次のように明記しています。

産業医の定期巡視については、少なくとも毎月1回(安衛則第15条で定める条件を満たす場合は少なくとも2月に1回)、産業医が実地で実施する必要があること

つまり「定期巡視=実地必須」は、産業医が選任されている事業場の話です。

ステップ2:産業医の選任義務は常時50人以上

労働安全衛生法第13条第1項は、「政令で定める規模の事業場ごとに」産業医を選任することを求めています。その「政令で定める規模」は、労働安全衛生法施行令第5条により常時50人以上の労働者を使用する事業場です。

50人未満の事業場には、産業医の選任義務がありません。

ステップ3:50人未満は「努力義務」の世界

では50人未満は何も求められていないのかというと、そうではありません。労働安全衛生法第13条の2が定めています。

事業者は、前条第一項の事業場以外の事業場については、労働者の健康管理等を行うのに必要な医学に関する知識を有する医師その他厚生労働省令で定める者に労働者の健康管理等の全部又は一部を行わせるように努めなければならない

ポイントは2つです。

  • 医師その他厚生労働省令で定める者」であって、「産業医」とは書かれていない
  • 「全部又は一部」でよい

選任産業医という枠組みではなく、必要な部分だけ医師に依頼すればよい、という構造になっています。だからこそ、実地でなければ果たせない定期巡視という義務も発生しません。

3ステップのまとめ

#条文内容
1労働安全衛生規則第15条定期巡視の義務を負うのは「産業医
2労働安全衛生法第13条第1項・同法施行令第5条産業医の選任義務は常時50人以上の事業場
3労働安全衛生法第13条の250人未満は「医師等に健康管理等の全部又は一部を行わせるよう努める」努力義務

50人未満の事業場では、実地が必須の定期巡視という職務が制度上発生しません。

それでも50人未満に残る「医師が必要な4つの場面」

選任義務がないことと、医師が要らないことは別です。人数にかかわらず全事業場に課される義務があります。

#場面根拠区分
1健康診断で異常の所見があった労働者について、就業上の措置に関する医師の意見を聴く労働安全衛生法第66条の4/労働安全衛生規則第51条の2義務(全事業場)
2時間外・休日労働が月80時間を超え、疲労の蓄積が認められる労働者から申出があった場合の医師による面接指導労働安全衛生法第66条の8/労働安全衛生規則第52条の2義務(人数要件なし)
3高ストレス者から申出があった場合の医師による面接指導労働安全衛生法第66条の10第3項現在は50人以上。令和10年(2028年)4月1日から50人未満にも拡大(令和8年政令第195号)
4上記以外で健康への配慮が必要な労働者への必要な措置/健康相談に適切に対応するための体制整備労働安全衛生法第66条の9・第13条の3努力義務

1と2は、従業員が5人でも50人でも、条文上は同じように義務です。「50人未満だから何もしなくてよい」は誤りです。

4つとも、オンラインで実施できます

上記の4場面はいずれも、実地でなければ果たせない性質のものではありません

面接指導(2・3)

厚生労働省は「情報通信機器を用いた…医師による面接指導の実施について」(平成27年9月15日付け基発0915第5号。令和2年11月19日による改正後)で、情報通信機器を用いた面接指導の留意事項を示しています。映像と音声で相互に確認できる機器を用いるなどの要件を満たせば実施できます。

ただし、音声のみの電話による面接指導は認められていません。また、実施する医師が必要と認める場合は直接対面で行う必要があります。

健診結果の意見聴取(1)

健康診断の結果に基づく就業判定は、健診結果と業務情報という書面の情報をもとに医師が判断するものです。労働安全衛生規則第51条の2第1項は、健康診断が行われた日から3か月以内に医師の意見を聴き、その意見を健康診断個人票に記載することを求めています。オンラインでの意見聴取を妨げる規定はありません。

健康相談・不調者対応(4)

そもそも努力義務であり、実施方法の指定はありません。

前提となる通達

基発0331第4号は、産業医の職務をオンラインで行うこと自体について次のとおり明示しています。

産業医として選任された事業場以外の場所から遠隔でその職務の一部を実施することとして差し支えないものである

選任産業医ですら遠隔で職務の一部を行えるのですから、選任義務のない50人未満の事業場で、医師に一部の職務だけをオンラインで依頼することに制度上の支障はありません。詳しい要件はオンライン産業医は法的に問題ない?|通達が示す要件と実地が必要な職務で解説しています。

オンラインで進める場合でも、会社側に残る義務

「オンラインだから何もしなくてよい」ではありません。次の点は会社側の責任として残ります。

項目内容根拠
記録の5年間保存法定の面接指導の結果は、記録を作成し5年間保存するのは事業者の義務労働安全衛生規則第52条の6・第52条の18
健康診断個人票への記載医師の意見は健康診断個人票に記載する労働安全衛生規則第51条の2第1項
健康情報の適正な取扱い会社が受け取るのは就業上必要な範囲の意見に限定する。診断名・検査値等の生データを求めない厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」
関係労働者の意見を聴く機会衛生委員会を設けていない事業者は、安全又は衛生に関する事項について関係労働者の意見を聴くための機会を設けるようにしなければならない労働安全衛生規則第23条の2
安全衛生推進者・衛生推進者の選任常時10人以上50人未満の事業場は選任が必要労働安全衛生法第12条の2・労働安全衛生規則第12条の2
申出の受付窓口面接指導は労働者の申出が起点になるため、誰にどう申し出るかを決めて周知しておく

無料で使える公的窓口も併用できます

従業員50人未満の事業場は、地域産業保健センター(地さんぽ)を無料で利用できます。全国350か所(おおむね労働基準監督署単位)に設置され、長時間労働者・高ストレス者への医師の面接指導や、健診有所見者への健康相談などを受けられます。

ただし厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)には、次の記載があります。

地産保は、企業規模として 50 人未満の小規模事業場を優先して支援を提供しています。いわゆる大企業の営業所等である小規模事業場で、本社等で選任されている産業医等の協力を得られるような場合は、ご利用いただけないことがあります。

まず管轄の地さんぽで対応できる範囲を確認し、対象外・日程が合わない・件数が読めないといった部分をオンラインの民間サービスで補う、という順序が現実的です。

50人を超えたら、どう変わるか

常時50人以上になると、次が発生します。

  • 産業医の選任義務(事由発生から14日以内/労働安全衛生規則第13条第1項第1号)
  • 所轄労働基準監督署長への選任報告(同条第2項)
  • 産業医の定期巡視=実地必須(労働安全衛生規則第15条・基発0331第4号)
  • 衛生委員会の設置・毎月1回以上の開催

つまり、50人到達を境に「オンライン完結」から「オンライン+実地のハイブリッド」へ移行が必要になります。50人が視野に入っている会社は、あらかじめ実地対応も可能な依頼先を選んでおくと切り替えがスムーズです。

よくある質問

Q1. 50人未満なら産業医は不要ですか?

A1. 選任義務はありません(労働安全衛生法第13条第1項、同法施行令第5条)。ただし医師等に健康管理等の全部または一部を行わせる努力義務があり(同法第13条の2)、健診有所見者の意見聴取や長時間労働者の面接指導は人数にかかわらず義務です。

Q2. オンラインだけの契約で、職場巡視をしなくても違法になりませんか?

A2. 定期巡視の義務は労働安全衛生規則第15条により「産業医」に課されるものです。選任義務のない50人未満の事業場では、この義務は発生しません。

Q3. 拠点が小さいだけで、会社全体では50人を超えています。どうなりますか?

A3. 産業医の選任義務は事業場ごとに判断します。会社全体で50人を超えていても、その事業場が50人未満なら選任義務はありません。ただし本社で選任された産業医は本社という事業場について職務を行う立場のため、他拠点を当然に担当できるわけではありません。

Q4. 電話でのオンライン面談でもよいですか?

A4. 法定の面接指導について、音声のみの電話による面接指導は認められていません。映像と音声で相互に確認できる機器が必要です。

Q5. 50人未満でも衛生委員会は必要ですか?

A5. 設置義務はありません(労働安全衛生法第18条は常時50人以上)。ただし委員会を設けていない事業者は、安全又は衛生に関する事項について関係労働者の意見を聴くための機会を設けるようにしなければなりません(労働安全衛生規則第23条の2)。

まとめ

「産業医の職場巡視は実地でなければならない」という情報だけを見ると、オンライン完結は無理に見えます。しかし条文をたどると、その義務は選任された産業医に課されるもので、選任義務は常時50人以上です。

50人未満の事業場で実際に必要になるのは、健診結果の意見聴取・長時間労働者の面接指導・(2028年4月からは)高ストレス者の面接指導・健康相談の4つで、いずれもオンラインで実施できます。記録の保存や健康情報の取扱いといった会社側の義務は残るため、そこを一緒に設計できる依頼先を選ぶことが実務上のポイントです。

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参考・出典:労働安全衛生法第12条の2・第13条・第13条の2・第13条の3・第18条・第66条の4・第66条の8・第66条の9・第66条の10/労働安全衛生法施行令第5条/労働安全衛生規則第12条の2・第13条・第15条・第23条の2・第51条の2・第52条の2・第52条の6・第52条の18(e-Gov法令検索)/厚生労働省「情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について」(令和3年3月31日付け基発0331第4号)/厚生労働省「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項、第66条の8の2第1項、第66条の8の4第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について」(平成27年9月15日付け基発0915第5号。令和2年11月19日による改正後)/厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)/「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律の一部の施行期日を定める政令」(令和8年政令第195号)/厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」/地域産業保健センター(こころの耳・厚生労働省)

本記事に記載の法令・通達は、2026年9月16日時点の内容を確認しています。法令・通達は改正されることがありますので、実務では最新の原文をご確認ください。