この記事でわかること
- 産業医の職務をオンラインで行ってよい法的根拠
- オンラインで実施する前に会社側が整えておくべき4つのこと
- 使用する情報通信機器に求められる要件
- オンラインでは代替できない職務(ここを誤ると法令違反になります)
オンラインで産業医を頼めるか調べている方へ(この記事の執筆元)
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結論:オンラインで職務の一部を行うことは、通達で明確に認められています
厚生労働省は、令和3年3月31日付けの通達「情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について」(基発0331第4号)で、次のとおり明示しています。
当該留意すべき事項に基づき産業医の職務を実施する場合においては、産業医として選任された事業場以外の場所から遠隔でその職務の一部を実施することとして差し支えないものである
つまり、産業医が事業場に行かずに、離れた場所からオンラインで職務の一部を行うことは、所定の留意事項を満たす限り問題ありません。「オンラインだから法的に不安」という懸念は、この通達で解消されています。
ただし条件があります。通達は「職務の一部」と書いており、実地でなければならない職務も明記しています。ここを取り違えると法令違反になるため、後半で詳しく整理します。
前提:産業医の職務とは何か
労働安全衛生規則第14条第1項は、産業医の職務として次を定めています(通達も同じ範囲を挙げています)。
- 健康診断の実施と、その結果に基づく労働者の健康を保持するための措置
- 長時間労働者に対する面接指導と、その結果に基づく措置
- ストレスチェックと高ストレス者への面接指導、その結果に基づく措置
- 作業環境の維持管理
- 作業の管理
- 労働者の健康管理
- 健康教育、健康相談その他労働者の健康の保持増進を図るための措置
- 衛生教育
- 労働者の健康障害の原因の調査および再発防止のための措置
このうち「医学に関する専門的知識を必要とするもの」を行うのが産業医の役割です。このリストのすべてが等しくオンライン化できるわけではない、というのが通達の要点です。
会社側が整えておくべき4つのこと(共通事項)
通達2(1)は、オンラインで産業医の職務を実施する場合に事業者が満たすべき共通事項を4つ挙げています。
| # | 内容 |
|---|---|
| ア | オンラインで実施する職務の範囲と留意事項について、衛生委員会等で調査審議を行ったうえで、労働者に周知していること |
| イ | 安衛法13条4項に基づき産業医へ情報を提供する際、遠隔で職務を行う産業医に適時・円滑に情報が届く仕組みを構築していること |
| ウ | 産業医が必要と認める場合には、事業場で産業医が実地で作業環境等を確認できる仕組みを構築していること |
| エ | 事業場の周辺の医療機関との連携を図る等、必要な体制を構築していること |
とくにアは見落とされがちです。「オンラインでやります」と決めるだけでは足りず、衛生委員会での調査審議と労働者への周知までがセットです。衛生委員会の設置義務がない50人未満の事業場については、後述の整理をご覧ください。
使用する機器に求められる3つの要件
通達2(2)は、使用する情報通信機器の要件を定めています。
| # | 要件 |
|---|---|
| ア | 産業医・労働者が容易に利用できるものであること |
| イ | 映像、音声等の送受信が常時安定しており、相互の意見交換等を円滑に実施できるものであること |
| ウ | 個人情報の外部への漏洩防止、外部からの不正アクセス防止の措置を講じること |
ウについて通達はさらに踏み込み、労働者の心身の状態に関する情報については「個人データに対するアクセス管理、個人データに対するアクセス記録の保存、ソフトウェアに関する脆弱性対策等の技術的安全管理措置」を適切に講じるよう求めています。
実務上は、一般的なWeb会議ツール(Zoom、Microsoft Teams、Google Meet等)で映像・音声の要件は満たせます。注意すべきはウで、面談記録や問診票をどこに置き、誰がアクセスできるかの管理まで含めて設計する必要があります。
オンラインでは代替できない職務
ここが最も重要です。通達2(3)は職務ごとに整理しており、実地が必要と明記されているものがあります。
| 職務 | 通達の扱い |
|---|---|
| 医師による面接指導(長時間労働者・高ストレス者等) | オンライン可。ただし別通達(平成27年9月15日付け基発0915第5号。令和2年11月19日による改正後)の留意事項を遵守し、実施する医師が必要と認める場合は直接対面で実施 |
| 作業環境の維持管理・作業の管理 | 定期巡視の際は実地で作業環境や作業内容等を確認する必要がある。事業場の状況を踏まえ、追加で実地確認する頻度を検討することが適当 |
| 衛生教育 | オンライン可。eラーニングに関する通達(令和3年1月25日付け基安安発0125第2号等)に基づき実施 |
| 健康障害の原因の調査・再発防止措置 | 原則として実地。視覚・聴覚だけでなく、臭いや皮膚への刺激等、嗅覚や触覚による情報を得る必要が想定されるため。ただし報告書等の確認により実地確認が不要と判断した場合はこの限りでない |
| 定期巡視 | 少なくとも毎月1回(安衛則15条の条件を満たす場合は少なくとも2か月に1回)、産業医が実地で実施する必要がある |
| 安全衛生委員会等への出席 | オンライン可。別通達(令和2年8月27日付け基発0827第1号)に基づく |
定期巡視だけは、オンラインでは置き換えられません
通達はその理由をこう説明しています。
定期巡視においては、作業場等を巡視し、労働者にとって好ましくない作業環境や作業内容等を把握するとともに、健康診断や健康相談だけからでは得られない労働者の健康に関する情報を得て、作業方法又は衛生状態に有害のおそれがあるときは、直ちに、その場で労働者の健康障害を防止するための必要な措置を講じる必要があること
「カメラ越しでは分からないものがある」という趣旨です。製造工程や使用する化学物質を変更するなど、作業環境や作業内容に大きな変更が生じる場合も、産業医が実地で確認することが適当とされています。
では、どこまでオンラインで完結できるのか
上の表を裏返すと、オンラインで完結できる範囲が見えてきます。
オンラインで実施できる
- 長時間労働者・高ストレス者への面接指導(医師が対面を要すると判断した場合を除く)
- 健康診断結果に基づく就業判定・意見の提供
- 健康相談、復職面談
- 衛生教育
- 衛生委員会・安全衛生委員会への出席
実地が必要
- 定期巡視(月1回、条件を満たせば2か月に1回)
- 健康障害の原因調査・再発防止措置(原則)
- 作業環境・作業内容に大きな変更があったときの確認
つまり、定期巡視の義務が生じる事業場では「完全オンライン」にはできません。逆に言えば、定期巡視の義務が生じない事業場では、オンラインだけで対応できる範囲が大きく広がります。この点は50人未満の会社は産業医対応をオンラインだけで完結できるで詳しく解説します。
産業医側にも求められること
通達2(4)は、産業医の側の姿勢にも言及しています。
産業医はこの趣旨を踏まえ、情報通信機器を用いて遠隔で実施することが適当でないと認める職務については、実地で現場を確認するとともに、(中略)労働者一人ひとりの健康を確保するために必要と認めるときは、事業者に対して、健康管理等に必要な情報を提供するよう求める等、必要な対応を行うことが重要であること
そして事業者に対しては「これらを踏まえ、産業医が効果的な活動が行えるよう、配慮すること」と求めています。
「オンラインだから手を抜いてよい」という趣旨ではない、という点は押さえておくべきです。産業医を選ぶ際も、この線引きを説明できる相手かどうかが判断材料になります。
よくある質問
Q1. オンラインだけの産業医契約は違法ですか?
A1. 違法ではありません。通達は「産業医として選任された事業場以外の場所から遠隔でその職務の一部を実施することとして差し支えない」と明示しています。ただし定期巡視など実地が必要な職務があるため、選任義務のある事業場では実地対応との組み合わせが必要です。
Q2. 電話だけの面談でもよいですか?
A2. 面接指導については、映像と音声で相互に確認できる機器を用いる必要があり、音声のみの電話による面接指導は認められていません(基発0915第5号)。
Q3. 衛生委員会での調査審議は必須ですか?
A3. 通達2(1)アは、オンラインで実施する職務の範囲と留意事項について衛生委員会等で調査審議を行い、労働者に周知することを求めています。衛生委員会の設置義務は常時50人以上の事業場ですが、50人未満でも関係労働者の意見を聴く機会を設けることが求められています(労働安全衛生規則第23条の2)。
Q4. 産業医が「実地で見たい」と言ったら、会社は断れますか?
A4. 通達2(1)ウは、産業医が必要と認める場合に実地で作業環境等を確認できる仕組みを構築していることを事業者に求めています。仕組みがないこと自体が通達の求める要件を満たしていないことになります。
Q5. オンライン面談の記録はどう管理すればよいですか?
A5. 通達は、労働者の心身の状態に関する情報について、アクセス管理・アクセス記録の保存・脆弱性対策等の技術的安全管理措置を適切に講じるよう求めています。あわせて、法定の面接指導の記録は事業者が5年間保存する必要があります(労働安全衛生規則第52条の6、第52条の18)。
まとめ
産業医の職務をオンラインで行うことは、厚生労働省の通達で明確に認められています。「オンラインだから法的に不安」という心配は不要です。
一方で、通達は「職務の一部」と書いており、定期巡視と健康障害の原因調査は実地と明記しています。オンライン化を検討する際は、①衛生委員会での調査審議と周知、②機器と情報管理の要件、③実地が必要な職務の切り分け、の3点を押さえてください。
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- 産業医のスポット利用(単発面談)とは
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参考・出典:厚生労働省「情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について」(令和3年3月31日付け基発0331第4号)/厚生労働省「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項、第66条の8の2第1項、第66条の8の4第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について」(平成27年9月15日付け基発0915第5号。令和2年11月19日による改正後)/厚生労働省「インターネット等を介したeラーニング等により行われる労働安全衛生法に基づく安全衛生教育等の実施について」(令和3年1月25日付け基安安発0125第2号、基安労発0125第1号、基安化発0125第1号)/厚生労働省「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第17条、第18条及び第19条の規定に基づく安全委員会等の開催について」(令和2年8月27日付け基発0827第1号)/労働安全衛生法第13条・第17条〜第19条・第66条の8・第66条の10/労働安全衛生規則第14条・第15条・第23条の2・第52条の6・第52条の18(e-Gov法令検索)
本記事に記載の法令・通達は、2026年9月16日時点の内容を確認しています。法令・通達は改正されることがありますので、実務では最新の原文をご確認ください。

