この記事の要点
月80時間超の時間外労働があったとき、会社には本人への時間数の通知など、申出とは別に生じる義務があります。労働安全衛生法と安衛則の条文に沿って、一般・研究開発業務・高度プロフェッショナルの違いと記録の保存年数まで整理します。

執筆・監修:小正 晃裕(医師・日本医師会認定産業医。詳しいプロフィールは記事末尾)|最終更新日:2026年10月19日

この記事でわかること

  • 「申出がなければ面接指導は不要」が半分しか正しくない理由
  • 80時間を超えたときに会社へ生じる3つの義務(うち1つは見落とされがち)
  • 申出がなくても実施が義務になる2つのケース
  • 面接指導のあとに必要な記録・意見聴取・事後措置
  • 50人未満の事業場での考え方

長時間労働者の面接指導でお困りの方へ(この記事の執筆元)

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「申出がなければやらなくてよい」は半分だけ正しい

長時間労働者の面接指導について、こういう理解をされていることがあります。

月80時間を超えても、本人から申出がなければ面接指導はしなくてよい

面接指導の実施そのものについては、これは正しいです。 条文がそうなっています。

第五十二条の三(面接指導の実施方法等)

法第六十六条の八の面接指導は、前条第一項の要件に該当する労働者の申出により行うものとする。

(労働安全衛生規則 第52条の3第1項)

しかし、申出がなくても会社に生じている義務があります。 そして、申出の有無に関係なく実施が義務になるケースもあります。この2つが抜けていると、面接指導を1件も実施していない会社でも、法令上の義務を果たしていないことになり得ます。

面接指導の対象になる労働者

まず対象者の要件です。

第五十二条の二(面接指導の対象となる労働者の要件等)

法第六十六条の八第一項の厚生労働省令で定める要件は、休憩時間を除き一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間が一月当たり八十時間を超え、かつ、疲労の蓄積が認められる者であることとする。

(同規則 第52条の2第1項)

要件内容
時間週40時間を超えた時間が、1か月あたり80時間超
状態疲労の蓄積が認められること
実施のきっかけ本人からの申出

なお同項ただし書により、その期日前1か月以内に面接指導を受けた労働者など、面接指導を受ける必要がないと医師が認めた者は除かれます。

80時間を超えたときに会社へ生じる3つの義務

① 時間数を毎月算定する

2 前項の超えた時間の算定は、毎月一回以上、一定の期日を定めて行わなければならない。

(同規則 第52条の2第2項)

「必要が生じたら計算する」ではありません。あらかじめ期日を決めて、毎月算定することが求められています。

② 【見落とされがち】本人に時間数を通知する

ここが最も見落とされる義務です。

3 事業者は、第一項の超えた時間の算定を行つたときは、速やかに、同項の超えた時間が一月当たり八十時間を超えた労働者に対し、当該労働者に係る当該超えた時間に関する情報を通知しなければならない。

(同規則 第52条の2第3項)

「通知しなければならない」と書かれています。 申出を待つのではなく、会社の側から本人に「あなたは今月◯時間超えています」と伝える義務です。

この通知がなければ、労働者は自分が対象者だと知ることができません。申出がないのは、通知していないからかもしれないという構造になっています。

「申出がないから面接指導ゼロ」という状態の会社は、まずこの通知を行っているかを確認してください。

③ 労働時間の状況を客観的な方法で把握する

第六十六条の八の三

事業者は、第六十六条の八第一項又は前条第一項の規定による面接指導を実施するため、厚生労働省令で定める方法により、労働者(次条第一項に規定する者を除く。)の労働時間の状況を把握しなければならない。

(労働安全衛生法 第66条の8の3)

方法も定められています。

第五十二条の七の三

法第六十六条の八の三の厚生労働省令で定める方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切な方法とする。

2 事業者は、前項に規定する方法により把握した労働時間の状況の記録を作成し、三年間保存するための必要な措置を講じなければならない。

(労働安全衛生規則 第52条の7の3)

自己申告だけでは「客観的な方法」に当たりません。また記録の3年保存も義務です。

申出があったら、遅滞なく実施する

3 事業者は、労働者から第一項の申出があつたときは、遅滞なく、法第六十六条の八の面接指導を行わなければならない。

(同規則 第52条の3第3項)

「次回の産業医訪問の日まで待つ」という運用は、この条文と整合しません。訪問が月1回の会社では、申出から実施までが1か月近く空くことがあります。

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申出がなくても義務になる2つのケース

ここが「申出がなければ不要」という理解の最大の落とし穴です。次の2つは、申出を要件としていません。

ケース1:研究開発業務に従事する労働者

第六十六条の八の二

事業者は、その労働時間が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める時間を超える労働者(労働基準法第三十六条第十一項に規定する業務に従事する者(中略)に限る。)に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない。

(労働安全衛生法 第66条の8の2第1項)

時間の基準は次のとおりです。

第五十二条の七の二

法第六十六条の八の二第一項の厚生労働省令で定める時間は、休憩時間を除き一週間当たり四十時間を超えて労働させた場合におけるその超えた時間について、一月当たり百時間とする。

(労働安全衛生規則 第52条の7の2第1項)

同条第2項の読替規定により、「申出により」ではなく「期日後、遅滞なく」実施することになります。つまり本人の申出は要件ではありません。

ケース2:高度プロフェッショナル制度の対象労働者

第六十六条の八の四

事業者は、労働基準法第四十一条の二第一項の規定により労働する労働者であつて、その健康管理時間(中略)が当該労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める時間を超えるものに対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による面接指導を行わなければならない。

(労働安全衛生法 第66条の8の4第1項)

こちらも1か月あたり100時間が基準で(同規則 第52条の7の4第1項)、読替規定により申出は要件になりません。

3つの制度の比較

一般(法66条の8)研究開発業務(法66条の8の2)高度プロフェッショナル(法66条の8の4)
時間の基準月80時間超月100時間超健康管理時間 月100時間超
疲労の蓄積要件になる要件ではない要件ではない
本人の申出必要不要不要
事後措置の例示就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等職務内容の変更、有給休暇の付与(年休を除く)等職務内容の変更、有給休暇の付与(年休を除く)、健康管理時間が短縮されるための配慮等

該当する労働者がいる会社では、申出を待っていると義務違反になります。

面接指導のあとに必要なこと

記録を作成し、5年保存する

第五十二条の六(面接指導結果の記録の作成)

事業者は、法第六十六条の八の面接指導(中略)の結果に基づき、当該法第六十六条の八の面接指導の結果の記録を作成して、これを五年間保存しなければならない。

(労働安全衛生規則 第52条の6第1項)

記録には、面接指導で確認した事項に加えて、医師の意見を記載することが求められています(同条第2項)。

労働時間の状況の記録が3年、面接指導の結果の記録が5年です。保存年数が異なります。

医師から意見を聴く(遅滞なく)

第五十二条の七(面接指導の結果についての医師からの意見聴取)

法第六十六条の八の面接指導の結果に基づく法第六十六条の八第四項の規定による医師からの意見聴取は、当該法第六十六条の八の面接指導が行われた後(中略)、遅滞なく行わなければならない。

(同規則 第52条の7)

必要があれば措置を講じ、衛生委員会に報告する

5 事業者は、前項の規定による医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。

(労働安全衛生法 第66条の8第5項)

面接指導は「実施して終わり」ではありません。 意見を聴き、必要な措置を講じ、衛生委員会へ報告するところまでが一連の流れです。

産業医は、申出を勧奨できる

4 産業医は、前条第一項の要件に該当する労働者に対して、第一項の申出を行うよう勧奨することができる。

(労働安全衛生規則 第52条の3第4項)

会社からの通知(§②)に加えて、産業医の側から申出を促すことが条文上認められています。 「申出が上がってこない」という状態を、通知と勧奨の2つで動かすことができます。

50人未満の事業場はどうなるか

面接指導の義務は事業場の規模にかかわらず適用されます。 産業医の選任義務(50人以上)とは別の話です。

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よくある質問

Q. 80時間を超えた本人への通知は、どんな形で行えばよいですか

条文は「当該超えた時間に関する情報を通知しなければならない」と定めるのみで、方法は限定されていません。時間数が本人に伝わる形であることが要点です。

Q. 申出がなければ面接指導をしなくてよいのですか

一般の労働者(法66条の8)については申出が要件です。ただし会社には時間数の通知義務があり、産業医は申出を勧奨できます。また研究開発業務と高度プロフェッショナル制度の対象者は、申出がなくても実施義務が生じます。

Q. 労働時間の把握は自己申告でもよいですか

規則はタイムカードやPCの使用時間の記録等の客観的な方法を挙げています。記録は3年間の保存が必要です。

Q. 面接指導の記録は何年保存しますか

5年です(安衛則52条の6)。労働時間の状況の記録(3年)とは年数が異なります。

Q. 産業医が月1回しか来ないのですが、申出があったらどうすればよいですか

条文は「遅滞なく」行うことを求めています。訪問日まで待つ運用は整合しません。オンラインでの実施や、単発での医師依頼を含めて検討してください。

Q. 50人未満でも面接指導は必要ですか

必要です。面接指導の義務は事業場の規模を問いません。産業医の選任義務とは別の制度です。

まとめ

  • 一般の労働者の面接指導は申出が要件ですが、それだけで終わりではありません
  • 80時間を超えたとき、会社には①毎月の算定 ②本人への時間数の通知 ③労働時間の状況の客観的な把握(記録3年保存)の義務があります
  • ②の通知は見落とされがちです。 申出が上がってこない原因がここにあることがあります
  • 研究開発業務(月100時間超)と高度プロフェッショナル制度(健康管理時間 月100時間超)は、申出がなくても実施義務が生じます
  • 申出があったら遅滞なく実施。記録は5年保存、医師の意見聴取は遅滞なく
  • 医師の意見を勘案して措置を講じ、衛生委員会等へ報告するところまでが一連の流れです
  • 面接指導の義務は事業場の規模を問いません

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参考・出典

  • 労働安全衛生法 第66条の8・第66条の8の2・第66条の8の3・第66条の8の4(e-Gov法令検索)
  • 労働安全衛生規則 第52条の2・第52条の3・第52条の6・第52条の7・第52条の7の2・第52条の7の3・第52条の7の4(e-Gov法令検索)

本記事に記載の法令・通達は、2026年9月16日時点の内容を確認しています。法令・通達は改正されることがありますので、実務では最新の原文をご確認ください。