この記事でわかること
- 訪問とオンラインを分ける唯一の決め手
- 事業場の規模別(50人未満/50人以上)の推奨パターン
- ハイブリッドにする場合の現実的な組み合わせ方
- 契約前に必ず確認しておくべきこと
どちらで契約すべきか迷っている方へ(この記事の執筆元)
筆者は現役の医師・産業医です。株式会社MeIXでは、オンライン完結のリモート産業医、訪問嘱託、その組み合わせのいずれにも対応しています。「うちはどちらが適切か」というご相談だけでも構いません。→ 30分の無料オンライン相談はこちら
結論:決め手は「実地が必要な職務が発生するか」だけ
訪問かオンラインかは、好みや予算で決める話に見えますが、制度上の分かれ目は1点だけです。
産業医の定期巡視の義務が生じるかどうか。
厚生労働省の通達(令和3年3月31日付け基発0331第4号)は、産業医の職務を遠隔で行うことを認めつつ、定期巡視については次のように明記しています。
産業医の定期巡視については、少なくとも毎月1回(安衛則第15条で定める条件を満たす場合は少なくとも2月に1回)、産業医が実地で実施する必要があること
そして、この定期巡視の義務を負うのは選任された産業医であり(労働安全衛生規則第15条)、産業医の選任義務は常時50人以上の事業場にしか課されていません(労働安全衛生法第13条第1項、同法施行令第5条)。
したがって、判断はこうなります。
| 事業場の規模 | 定期巡視の義務 | 基本的な選択 |
|---|---|---|
| 50人未満 | 発生しない | オンライン完結で足りる |
| 50人以上 | 発生する(実地) | 訪問+オンラインのハイブリッド |
職務ごとの整理:どこまでオンラインでできるか
基発0331第4号の整理を、実務の目線でまとめ直したものです。
| 職務 | オンライン | 備考 |
|---|---|---|
| 長時間労働者・高ストレス者への面接指導 | ○ | 別通達(平成27年9月15日付け基発0915第5号。令和2年11月19日による改正後)の留意事項を遵守。実施する医師が必要と認める場合は直接対面 |
| 健康診断結果に基づく就業判定・意見の提供 | ○ | 書面情報に基づく判断のため |
| 健康相談・復職面談 | ○ | |
| 衛生教育 | ○ | eラーニングに関する通達(令和3年1月25日付け基安安発0125第2号等)に基づく |
| 衛生委員会・安全衛生委員会への出席 | ○ | 令和2年8月27日付け基発0827第1号に基づく |
| 作業環境の維持管理・作業の管理 | △ | 定期巡視の際は実地で作業環境や作業内容等を確認する必要がある |
| 健康障害の原因調査・再発防止措置 | △ | 原則として実地。臭いや皮膚への刺激等、嗅覚や触覚による情報を得る必要が想定されるため |
| 定期巡視 | ✕ | 少なくとも毎月1回(条件を満たす場合は2か月に1回)、実地 |
「人と向き合う職務」はすべてオンラインで完結し、「場所を見る職務」だけが実地、という整理です。
パターン1:50人未満の事業場 → オンライン完結
産業医の選任義務がないため、定期巡視も発生しません。人数にかかわらず義務として残るのは次の対応で、いずれもオンラインで実施できます。
| 場面 | 根拠 |
|---|---|
| 健診で異常の所見があった労働者について、就業上の措置に関する医師の意見を聴く | 労働安全衛生法第66条の4 |
| 月80時間超で疲労蓄積が認められる労働者から申出があった場合の面接指導 | 労働安全衛生法第66条の8 |
| 高ストレス者から申出があった場合の面接指導 | 労働安全衛生法第66条の10第3項(令和10年4月1日から50人未満にも拡大) |
| 健康相談への対応体制の整備 | 労働安全衛生法第13条の3(努力義務) |
訪問を選ぶメリットが薄い規模です。移動時間が費用に乗る分、同じ予算ならオンラインのほうが面談の回数を増やせます。
ただし、次のような場合は訪問を検討する価値があります。
- 有機溶剤・粉じん・化学物質など、作業環境そのものにリスク要因がある
- 労働災害が発生した、または発生のおそれがある
- 50人到達が視野に入っており、あらかじめ実地対応も可能な依頼先を押さえておきたい
パターン2:50人以上の事業場 → ハイブリッド
完全オンラインにはできません。定期巡視は実地が必要です。
現実的な組み合わせは次の形になります。
| 職務 | 手段 | 頻度の目安 |
|---|---|---|
| 定期巡視 | 訪問 | 毎月1回(安衛則15条の条件を満たす場合は2か月に1回) |
| 衛生委員会 | オンライン可 | 毎月1回以上(安衛則23条1項) |
| 面接指導・健康相談・復職面談 | オンライン可 | 随時 |
| 健診の事後措置(意見聴取) | オンライン可 | 健診実施日から3か月以内(安衛則51条の2第1項) |
「2か月に1回」にできる条件
安衛則15条は、定期巡視を毎月1回から2か月に1回に緩和できる条件を定めています。
産業医が、事業者から、毎月一回以上、次に掲げる情報の提供を受けている場合であつて、事業者の同意を得ているとき
つまり、毎月の情報提供と事業者の同意が要件です。自動的に2か月に1回になるわけではありません。この運用にする場合は、何の情報を毎月提供するかを衛生委員会等で決めておいてください。
パターン3:拠点が分散している会社
選任義務は事業場ごとに判断します(労働安全衛生法第13条第1項)。本社が50人以上でも、営業所が50人未満なら、その営業所には選任義務がありません。
したがって、次のような設計になります。
| 拠点 | 人数 | 対応 |
|---|---|---|
| 本社 | 50人以上 | 産業医を選任。定期巡視は訪問、それ以外はオンライン可 |
| 営業所A・B・C | 各50人未満 | 選任義務なし。オンラインで一括対応 |
多拠点企業ほどオンラインの費用対効果が高くなります。訪問だと拠点ごとに移動費が乗りますが、オンラインなら拠点数が増えても単価構造が変わりにくいためです。
会社側の準備は、どちらでも必要
オンラインを選んでも、会社側の義務がなくなるわけではありません。基発0331第4号は、遠隔で職務を実施する場合の共通事項として4点を挙げています。
| # | 事業者が整えること |
|---|---|
| ア | オンラインで実施する職務の範囲と留意事項について、衛生委員会等で調査審議を行ったうえで労働者に周知していること |
| イ | 産業医へ情報を提供する際、遠隔で職務を行う産業医に適時・円滑に情報が届く仕組みを構築していること |
| ウ | 産業医が必要と認める場合に、事業場で実地で作業環境等を確認できる仕組みを構築していること |
| エ | 事業場の周辺の医療機関との連携を図る等、必要な体制を構築していること |
ウは契約時に必ず確認してください。「オンライン専門なので訪問はできません」という契約だと、この要件を満たせません。産業医が必要と認めたときに実地確認ができる余地を、契約に残しておく必要があります。
契約前のチェックリスト
| # | 確認項目 | 訪問 | オンライン |
|---|---|---|---|
| 1 | 定期巡視の義務が発生するか(50人以上か) | 必須 | 不可 |
| 2 | 産業医が必要と認めた場合の実地確認の可否 | ― | 要確認 |
| 3 | 使用するWeb会議ツールと情報管理の方法 | ― | 要確認 |
| 4 | 面談記録・問診票の保存場所とアクセス権 | 要確認 | 要確認 |
| 5 | 緊急時(面談中に医師が緊急対応すべき徴候を把握した場合)の連携先 | ― | 要確認 |
| 6 | 衛生委員会への出席方法 | ― | 要確認 |
| 7 | 移動費・交通費が料金に含まれるか | 要確認 | ― |
5番目は見落とされがちですが、面接指導の通達(基発0915第5号)が、緊急時対応体制の整備を留意事項として明示しています。
よくある質問
Q1. オンラインのほうが安いですか?
A1. 一般に移動時間・交通費が発生しない分、同じ業務量なら費用は抑えられます。ただし料金体系は依頼先により異なるため、面談回数・衛生委員会出席・報告書作成が基本料金に含まれるかを確認してください。
Q2. 50人未満でもオンラインより訪問のほうがよいケースはありますか?
A2. 作業環境そのものにリスク要因がある場合(有機溶剤・粉じん・化学物質等)や、労働災害が発生した場合です。選任義務がなくても、現場を見てもらう価値があります。
Q3. 途中でオンラインから訪問に切り替えられますか?
A3. 契約内容によります。50人到達が見込まれる会社は、切り替え可否と料金を契約時に確認しておいてください。到達後14日以内に選任する必要があります(労働安全衛生規則第13条第1項第1号)。
Q4. 電話だけの面談でもよいですか?
A4. 法定の面接指導については、映像と音声で相互に確認できる機器が必要で、音声のみの電話による面接指導は認められていません(基発0915第5号)。
Q5. 訪問とオンラインで、産業医の責任範囲は変わりますか?
A5. 変わりません。基発0331第4号は、産業医の側にも「遠隔で実施することが適当でないと認める職務については、実地で現場を確認する」ことを求めています。手段が変わるだけで、職務の中身は同じです。
まとめ
訪問かオンラインかは、定期巡視の義務が発生するかで決まります。
- 50人未満:定期巡視の義務が発生しないため、オンライン完結で足りる
- 50人以上:定期巡視は実地。訪問+オンラインのハイブリッド
- 多拠点:事業場ごとに判断。50人未満の拠点はオンラインで一括対応が効率的
どちらを選んでも、①衛生委員会での調査審議と周知、②情報提供の仕組み、③実地確認の余地、④周辺医療機関との連携、の4点は会社側で整える必要があります。
株式会社MeIXは、オンライン完結・訪問・その組み合わせのいずれにも対応しています。→ 30分の無料オンライン相談はこちら
あわせて読みたい
参考・出典:厚生労働省「情報通信機器を用いた産業医の職務の一部実施に関する留意事項等について」(令和3年3月31日付け基発0331第4号)/厚生労働省「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第66条の8第1項、第66条の8の2第1項、第66条の8の4第1項及び第66条の10第3項の規定に基づく医師による面接指導の実施について」(平成27年9月15日付け基発0915第5号。令和2年11月19日による改正後)/厚生労働省「情報通信機器を用いた労働安全衛生法第17条、第18条及び第19条の規定に基づく安全委員会等の開催について」(令和2年8月27日付け基発0827第1号)/労働安全衛生法第13条・第13条の3・第66条の4・第66条の8・第66条の10/労働安全衛生法施行令第5条/労働安全衛生規則第13条・第15条・第23条・第51条の2(e-Gov法令検索)
本記事に記載の法令・通達は、2026年9月16日時点の内容を確認しています。法令・通達は改正されることがありますので、実務では最新の原文をご確認ください。

