この記事でわかること
- 集団分析と職場環境改善が努力義務である根拠
- 10人未満の集団は原則として結果の提供を受けてはいけないという線引きと、その数え方
- 小規模事業場で集団を作るときの考え方
- 厚労省マニュアルに載っている実際の改善事例6件
集団分析の活かし方に悩んでいる方へ(この記事の執筆元)
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前提:ストレスチェックは「受けて終わり」の制度ではない
厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)は、制度の位置づけをこう定義しています。
このように、ストレスチェック制度は、集団分析・職場環境改善まで含めた一体的な制度です。(0-1)
同マニュアルは「ストレスチェック制度」という語を、ストレスチェックそのもののほか、医師の面接指導、面接指導後の就業上の措置、さらに集団分析・職場環境改善を含む一連の取組全体を指すものとして使っています。
集団分析・職場環境改善は「努力義務」
| 取組 | 義務の区分 | 根拠 |
|---|---|---|
| ストレスチェックの実施 | 義務(令和10年4月1日から50人未満も) | 労働安全衛生法第66条の10第1項 |
| 医師の面接指導(申出があった場合) | 義務 | 同条第3項 |
| 集団ごとの集計・分析 | 努力義務(事業場規模を問わず) | 労働安全衛生規則第52条の14 |
| 職場環境の改善 | 努力義務(事業場規模を問わず) | 同上 |
マニュアルはこう書いています。
事業者は、委託先の外部機関(実施者)に、個人のストレスチェック結果を集団ごとに集計・分析させるよう努めなければなりません。(5-1)
事業者は、集団分析結果を活用し、職場環境のストレス要因の軽減に取り組むよう努めなければなりません。(5-2)
努力義務なので罰則はありません。ただし、制度の主目的であるメンタルヘルス不調の未然防止(一次予防)は、個人のセルフケアだけでは達成できません。
2027年4月から、条文に「特定の個人を識別することができない方法で」が加わります
集団分析については、2026年6月30日に労働安全衛生規則が改正されました(令和8年厚生労働省令第112号)。施行は2027年4月1日です。
改正後の条文は次のようになります。
第52条の14 事業者は、検査を行つた場合は、当該検査を行つた医師等に、当該検査の結果を当該事業場の当該部署に所属する労働者の集団その他の一定規模の集団ごとに、特定の個人を識別することができない方法で、集計させ、その結果について分析させるよう努めなければならない。
(労働安全衛生規則 第52条の14第1項・2027年4月1日施行)
運用が変わるわけではありません。 通達にこう書かれています。
これは、集団分析については、個々の労働者が特定できないことを前提とする従来の解釈を明文化した趣旨であること。(中略)従来の運用に変更を加えるものではないこと。
(労働安全衛生規則の一部を改正する省令の施行について・令和8年6月30日付け基発0630第2号)
ただし、通達は次の点も明記しています。
なお、特定の個人が識別可能な方法により集団分析を行うことは、本改正に基づく集団分析の実施の努力義務を履行したことにならないことはもとより、労働者のプライバシー保護の観点から許容されない趣旨であること。
(同通達)
以下で説明する「10人未満の扱い」は、この改正後も変わりません。
10人未満の集団は、原則として結果の提供を受けてはいけない
小規模事業場で必ず問題になる論点です。
集団分析結果については、集計・分析の単位が10人を下回る場合には、個人が特定されるおそれがあることから、原則として集団分析結果の提供を受けてはいけません。(5-1)
「受け取らないほうがよい」ではなく「受けてはいけない」という書き方である点に注意してください。
「10人」は在籍人数ではなく受検者数
さらに重要な注記があります。
集団分析の下限人数の「10人」は、在籍労働者数ではなく、実際の受検者数(有効なデータ数)でカウントする必要があります。
従業員12人でも、受検したのが9人なら集団分析結果は受け取れません。受検率が低いと、そもそも集団分析が成立しない、ということです。全員受検を促す実務上の理由がここにあります。
外部委託なら自動的に守られる
マニュアルは、自社実施の場合の留意点としてこう書いています。
外部機関が集計・分析を実施して事業場に提供する場合は、個人を特定できない措置(10人未満は非表示など)が自動的に講じられますが、自社内で集計・分析する場合には、実施事務従事者を自社内で選定し、個人を特定できない方法による実施を厳守するとともに、守秘義務の徹底が必要となります。(8)
委託先を選ぶ際は、10人未満を自動的に非表示にする仕組みがあるかを確認してください。
10人未満の事業場・10人未満の集団は「原則として実施しない」
労働者数10人未満の事業場や10人以上の事業場における10人未満の集団単位では、プライバシー保護の観点から、原則として集団分析を実施しないでください。(8)
分析の方法:仕事のストレス判定図
集団分析の具体的な方法は使用する調査票により異なりますが、マニュアルは次のように示しています。
国が標準的な項目として示す「職業性ストレス簡易調査票」(57項目)又は簡略版(23項目)を使用する場合には、これに関して公開されている「仕事のストレス判定図」によることが適当です。(5-1)
なお、簡略版(23項目)を選ぶと集団分析が詳細にできないことにマニュアル自身が注意を促しています(2-5)。集団分析まで活用する前提なら、57項目を選ぶ判断になります。
結果は5年間保存が望ましい
集団分析結果は、経年変化をみて職場のストレスの状況を把握・分析することも重要であることから、事業者が5年間保存することが望まれます。(5-1)
1年分だけでは「この数値が高いのか低いのか」が判断できません。経年で見て初めて意味が出ます。
改善につなげる:厚労省マニュアルの事例6件
マニュアル5-2は、実際の職場環境改善の取組例を6件挙げています。設備投資からコミュニケーション施策まで幅があることが分かります。
| 事例 | 業種・規模 | 分析結果 | 実施した改善 |
|---|---|---|---|
| A | 技術サービス業・約110名 | 業務の量や質によるストレス負荷が高い | 長時間労働が要因の一つと捉え、業務効率化の方法を検討し実施。集団分析結果は各部門長→各グループリーダーへ共有し、グループ単位で展開 |
| B | 鉱業・採石業・砂利採取業・約25名 | 「職場環境によるストレス」の数値が高く出た年に現場を確認 | 夏場の高温状態が負担と判明し、スポットクーラーを新たに配置 |
| C | 製造業・75名 | 身体的負担と職場環境(騒音、照明、温度、換気など)が要因として大きい | 工場棟と事務棟の屋根・外壁に5か年計画で遮熱塗料、水銀灯103基を全てLEDに交換、冷暖房設備の導入、休憩室の改善 |
| D | 建設業・1,000名以上 | 若手社員が先輩社員の言葉遣いに委縮し強いストレス。管理監督者も悩んでいた | 強い口調や言葉遣いによる指導がハラスメントになる場合もあるといったハラスメント防止研修を全社員へ実施 |
| E | 製造業・約1,000名(部署79名) | 高ストレス者の割合が高い。上司のサポート得点が低く、機械トラブルが多い割に上司が多忙で相談にのれない | 小グループごとに権限と技術を持つサブリーダーを設置し細かい指示を代行。2年後、他部署に比べ高ストレス者の割合が減少し、疾病で休む日数も減少 |
| F | 製造業・約150名(部署26名) | 同僚のサポート等が低い | 「コミュニケーションのよい、働きやすい職場づくり」を目的とした従業員参加型の話し合い(2時間のグループ討議)。「情報周知のためのホワイトボードの設置」「他チームの情報を得るための情報交換会」の2つが提案・実行され、その後の調査で職場の一体感とワーク・エンゲイジメントの点数が上昇 |
BとCは、メンタルヘルス施策というより設備投資です。「ストレスチェック=メンタルの話」と捉えていると出てこない発想で、暑さ・騒音・照明といった物理的な作業環境が数値に表れた例です。EとFは効果まで確認できている点が参考になります。
進め方:小規模事業場での現実的な手順
マニュアルの記載を実務用の順序に組み直すと、次のようになります。
| # | やること | 留意点 |
|---|---|---|
| 1 | 集計・分析の単位を決める | 受検者数10人以上になる単位で。マニュアルの規程モデル例では「原則として、会社単位で行う」としている |
| 2 | 外部機関(実施者)に集計・分析させる | 委託契約に含まれているか要確認 |
| 3 | 結果を受け取り、経年比較する | 5年間保存が望まれる |
| 4 | 現場を確認する(事例Bのように) | 数値だけでは要因が分からない。実際に見に行くと分かることがある |
| 5 | 改善策を決め、実施する | 外部機関のアドバイス、管理監督者の日常の情報、労働者への意見聴取も勘案する |
| 6 | 次年度の結果で効果を確認する | 事例Eは2年後に効果を確認している |
マニュアルは、改善を検討する際に集団分析結果だけでなく、外部機関から提供された参考データやアドバイス、管理監督者による日常の職場管理で得られた情報、労働者(労働組合等)への意見聴取から得られた情報も勘案することが望まれるとしています(5-2)。
よくある質問
Q1. 従業員が10人未満です。集団分析はできませんか?
A1. プライバシー保護の観点から、原則として実施しないでくださいとされています(マニュアル8)。代わりに、労働安全衛生規則第23条の2に基づく関係労働者の意見を聴く機会などを活用して、職場の課題を把握する方法が現実的です。
Q2. 部署別に見たいのですが、どの部署も10人に届きません。
A2. 受検者数10人以上になるまで単位をまとめてください。マニュアルの規程モデル例も「原則として、会社単位で行う」としています。無理に細分化すると個人が特定されるおそれがあります。
Q3. 集団分析の結果は誰まで見てよいですか?
A3. マニュアルの規程モデル例では「実施者から提供された集計・分析結果は、人事労務部門で保有する」とされています。職場環境改善のために管理監督者へ共有する場合も、個人が特定されない形であることが前提です。
Q4. 集団分析をやらないと罰則はありますか?
A4. 努力義務のため罰則はありません。ただし制度の主目的である一次予防は集団分析・職場環境改善まで含めて達成されるものとされています。
Q5. 受検率が低くて集団分析が成立しません。
A5. 受検勧奨を行ってください。委託先の外部機関が未受検者に勧奨する方法と、事業者が受検者リストを入手して勧奨する方法があります。ただし業務命令のような形で強要しないよう十分に留意する必要があります(マニュアル3-1)。労働者に受検義務は課されていません。
まとめ
集団分析と職場環境改善は努力義務ですが、ここまでやって初めてストレスチェック制度は完成します。
小規模事業場でとくに重要なのは次の3点です。
- 10人未満の集団は原則として結果の提供を受けてはいけない。しかも「10人」は受検者数で数える
- 外部委託なら10人未満の自動非表示が働く。委託先選定時に確認する
- 数値だけで判断せず、現場を確認する。設備・作業環境の問題が数値に出ていることがある
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参考・出典:厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)/労働安全衛生法第66条の10/労働安全衛生規則第23条の2・第52条の14(e-Gov法令検索)/労働安全衛生規則の一部を改正する省令(令和8年厚生労働省令第112号)及び同施行通達(令和8年6月30日付け基発0630第2号)/厚生労働省「ストレスチェックの「集団分析」を適切に実施しましょう!」/厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」
本記事に記載の法令・通達は、2026年9月16日時点の内容を確認しています。法令・通達は改正されることがありますので、実務では最新の原文をご確認ください。

