この記事の要点
厚労省の職場復帰支援の手引きは、主治医の「復職可」がただちに業務遂行能力の回復を意味するとは限らないと明記しています。5つのステップ、試し出勤の3類型、50人未満の進め方まで、原文に沿って産業医が整理しました。

執筆・監修:小正 晃裕(医師・日本医師会認定産業医。詳しいプロフィールは記事末尾)|最終更新日:2026年10月19日

この記事でわかること

  • 主治医の「復職可」の診断書だけで復職を決められない理由(手引きが明記しています)
  • 厚労省の手引きが示す5つのステップ
  • 「模擬出勤」「通勤訓練」「試し出勤」の違いと、導入時に決めておくこと
  • 「まずは元の職場への復帰」が原則とされている理由
  • 産業医がいない50人未満の事業場での進め方

復職判断でお困りの方へ(この記事の執筆元)

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まず、何を見ればよいのか

心の健康問題で休職していた従業員から「主治医が復職可と言っています」と診断書が出てきたとき、会社はどう判断すればよいのか。

この問いに正面から答えている公的資料があります。厚生労働省の「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成16年10月。改訂 平成21年3月、改訂 平成24年7月)です。

注意点を先に書きます。 この手引きは法令ではなく、事業場向けのマニュアルとして公表されたものです。手引き自体が「事業者によって行われることが望ましい事項等」と位置づけています。守らなければ罰則がある、という性質のものではありません。

ただし、復職の判断について公的にまとまった記述はこの手引きがほぼ唯一です。そして内容は実務的に具体的です。以下、原文に沿って見ていきます。

「主治医が復職可」は、どこまでを意味するのか

手引きの第2ステップに、この記事でいちばん重要な記述があります。

ただし現状では、主治医による診断書の内容は、病状の回復程度によって職場復帰の可能性を判断していることが多く、それはただちにその職場で求められる業務遂行能力まで回復しているか否かの判断とは限らないことにも留意すべきである。また、労働者や家族の希望が含まれている場合もある。そのため、主治医の判断と職場で必要とされる業務遂行能力の内容等について、産業医等が精査した上で採るべき対応について判断し、意見を述べることが重要となる。

(心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き 3(2))

ここを整理すると、次のようになります。

誰が判断するか何を判断しているか
主治医の診断書主治医病状の回復程度(治療の観点)
産業医等の意見産業医等主治医の判断とその職場で求められる業務遂行能力との突き合わせ
最終決定事業者上記を踏まえた職場復帰の可否

主治医は、その会社の業務内容を知りません。 診察室で見えるのは治療経過であって、通勤に耐えられるか、朝から夕方まで集中力が続くか、その職場の業務量をこなせるかではありません。主治医が悪いのではなく、役割が違います。

手引きは、この隙間を埋めるために産業医等の精査が必要だとしています。

なお、主治医に意見を求める際には、次のような工夫が挙げられています。

あらかじめ主治医に対して職場で必要とされる業務遂行能力の内容や社内勤務制度等に関する情報を提供した上で、就業が可能であるという回復レベルで復職に関する意見書を記入するよう依頼することが望ましい。

(同 3(2))

主治医に「職場の情報」を渡していない状態で診断書を求めているなら、まずそこが改善点です。

手引きが示す5つのステップ

手引きは、休業開始から復帰後のフォローアップまでを5段階に分けています。

ステップ段階主な内容
第1病気休業開始及び休業中のケア病気休業診断書の提出、管理監督者・産業保健スタッフによるケア、安心感の醸成
第2主治医による職場復帰可能の判断復職診断書の提出、産業医等による精査、主治医への情報提供
第3職場復帰の可否の判断及び職場復帰支援プランの作成情報の収集と評価、可否の判断、プランの作成
第4最終的な職場復帰の決定状態の最終確認、意見書の作成、事業者による決定
第5職場復帰後のフォローアップ再燃・再発の確認、勤務状況の評価、プランの見直し

第3ステップが中心です。 手引きも「本手引きで示す職場復帰支援の手続きにおいて中心的な役割を果たすもの」としています。

第3ステップで何を確認するか

手引きは、確認する項目をかなり具体的に列挙しています。業務遂行能力の評価として挙げられているのは次の6点です。

(a)適切な睡眠覚醒リズムの有無

(b)昼間の眠気の有無(投薬によるものを含む。)

(c)注意力・集中力の程度

(d)安全な通勤の可否

(e)日常生活における業務と類似した行為の遂行状況と、それによる疲労の回復具合(読書やコンピュータ操作が一定の時間集中してできること、軽度の運動ができること等)

(f)その他家事・育児、趣味活動等の実施状況など

(同 3(3)ア(ウ)b)

「元気そうに見えるか」ではなく、この6点を具体的に確認します。

あわせて、職場側についても評価するよう求めています。業務量や作業密度、業務量の時期的な変動、実施可能な就業上の配慮、実施可能な人事労務管理上の配慮などです(同 3(3)ア(エ))。本人だけを見るのではなく、受け入れる側も評価の対象です。

判断基準の例

手引きは「定型的な判断基準を示すことは困難」としたうえで、例を挙げています。

職場復帰判断基準の例として、労働者が職場復帰に対して十分な意欲を示し、通勤時間帯に一人で安全に通勤ができること、会社が設定している勤務日に勤務時間の就労が継続して可能であること、業務に必要な作業(読書、コンピュータ作業、軽度の運動等)をこなすことができること、作業等による疲労が翌日までに十分回復していること等の他、適切な睡眠覚醒リズムが整っていること、昼間の眠気がないこと、業務遂行に必要な注意力・集中力が回復していること等が挙げられよう。

(同 6(2))

試し出勤には3つの形がある

正式な復職決定の前に行う制度について、手引きは3つを例示しています。それぞれ内容が違います。

#名称内容
①模擬出勤職場復帰前に、通常の勤務時間と同様な時間帯において、短時間又は通常の勤務時間で、デイケア等で模擬的な軽作業やグループミーティング等を行ったり、図書館などで時間を過ごす
②通勤訓練職場復帰前に、労働者の自宅から職場の近くまで通常の出勤経路で移動を行い、そのまま又は職場付近で一定時間を過ごした後に帰宅する
③試し出勤職場復帰前に、職場復帰の判断等を目的として、本来の職場などに試験的に一定期間継続して出勤する

(同 6(3))

導入前に決めておくこと

手引きは、制度を設ける際の留意点を明記しています。

ただし、この制度の導入に当たっては、この間の処遇や災害が発生した場合の対応、人事労務管理上の位置づけ等について、あらかじめ労使間で十分に検討しておくとともに、一定のルールを定めておく必要がある。なお、作業について使用者が指示を与えたり、作業内容が業務(職務)に当たる場合などには、労働基準法等が適用される場合がある(災害が発生した場合は労災保険給付が支給される場合がある)ことや賃金等について合理的な処遇を行うべきことに留意する必要がある。

(同 6(3))

「無給のリハビリ出勤」として運用する場合、ここは要注意です。 使用者が作業の指示を与えていれば労働基準法等が適用される場合があり、災害が発生したときは労災保険給付が支給される場合があると手引きは述べています。

さらに③の試し出勤については、次の記述があります。

特に、③の試し出勤については、具体的な職場復帰決定の手続きの前に、その判断等を目的として行うものであることを踏まえ、その目的を達成するために必要な時間帯・態様、時期・期間等に限るべきであり、いたずらに長期にわたることは避けること。

(同 6(3))

また、主治医からも「試し出勤等を行うことが本人の療養を進める上での支障とならない」との判断を受けることが必要とされています(同 6(3))。

「まずは元の職場への復帰」が原則とされている

復職にあたって配置転換を考える会社は多いのですが、手引きの立場は逆です。

職場復帰に関しては元の職場(休職が始まったときの職場)へ復帰させることが多い。これは、たとえより好ましい職場への配置転換や異動であったとしても、新しい環境への適応にはやはりある程度の時間と心理的負担を要するためであり、そこで生じた負担が疾患の再燃・再発に結びつく可能性が指摘されているからである。これらのことから、職場復帰に関しては「まずは元の職場への復帰」を原則とし、(中略)まずは元の慣れた職場で、ある程度のペースがつかめるまで業務負担を軽減しながら経過を観察し、その上で配置転換や異動を考慮した方がよい場合が多いと考えられる。

(同 6(4)ア)

ただし例外も明記されています。

ただし、これはあくまでも原則であり、異動等を誘因として発症したケースにおいては、現在の新しい職場にうまく適応できなかった結果である可能性が高いため、適応できていた以前の職場に戻すか、又は他の適応可能と思われる職場への異動を積極的に考慮した方がよい場合がある。

(同 6(4)ア)

「職場環境が原因だろうから異動させよう」と考える前に、その異動自体が発症の誘因だったのかどうかを確認する必要があります。

就業上の配慮で見落とされがちな点

手引きには、実務上よく知られていない指摘があります。

なお、短時間勤務を採用する場合には、適切な生活リズムが整っていることが望ましいという観点からは、始業時間を遅らせるのではなく終業時間を早める方が望ましい。また、同僚に比べて過度に業務を軽減されることは逆にストレスを高めること等もあるので、負荷業務量等についての調整が必要である。

(同 6(4)イ)

「朝はつらいだろうから遅めの出社で」という配慮は、手引きの考え方とは逆向きです。

具体的な配慮の例として挙げられているのは次のとおりです。

  • 短時間勤務
  • 軽作業や定型業務への従事
  • 残業・深夜業務の禁止
  • 出張制限(顧客との交渉・トラブル処理などの出張、宿泊をともなう出張などの制限)
  • 交替勤務制限
  • 業務制限(危険作業、運転業務、高所作業、窓口業務、苦情処理業務等の禁止又は免除)
  • フレックスタイム制度の制限又は適用(ケースにより使い分ける)
  • 転勤についての配慮

(同 6(4)イ)

なお、就業上の配慮については次の記述もあります。

職場復帰支援として実施する就業上の配慮は、当該労働者の健康を保持し、円滑な職場復帰を目的とするものであるので、この目的に必要な内容を超えた措置を講ずるべきではない。

(同 3(4)ウ)

疾患名は「必ずしも含まれない」

プライバシーの扱いについても、手引きは踏み込んでいます。

ここで必要な情報とは、職場復帰支援に関して職場で配慮すべき内容を中心とし、それに関係する者の理解を得るために必要とされる病態や機能に関する最小限の情報である。具体的な疾患名は、必ずしもこれに含まれない。

(同 6(1))

特に、メンタルヘルスに関する健康情報等のうち、心の健康問題を示す疾患名は誤解や偏見を招きやすいことから、特に慎重な取扱いが必要である。

(同 5(2))

現場に伝えるべきは「何の病気か」ではなく「何に配慮するか」です。

産業医がいない50人未満の事業場では

手引きは、50人未満の事業場について明示的に記述しています。

産業医が選任されていない50人未満の小規模事業場においては、人事労務管理スタッフ及び管理監督者等、又は衛生推進者若しくは安全衛生推進者が、主治医との連携を図りながら、また地域産業保健センター、労災病院勤労者メンタルヘルスセンター等の事業場外資源を活用しながら検討を進めていくことが必要である。

(同 3(3))

職場復帰の可否の判断についても、同様の記述があります(同 3(3)イ)。

産業医がいないことは、復職判断をしなくてよい理由にはなりません。 事業場外資源を使いながら進めることが想定されています。衛生推進者の選任義務(10人以上50人未満)については衛生管理者と産業医は何が違う?で整理しています。

50人未満で医師の関与が必要になる場面全般は50人未満でも医師の対応が必要になる4つの場面をご覧ください。

関連する条文

手引きは法令ではありませんが、背景には次の条文があります。

第五条(労働者の安全への配慮)

使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする。

(労働契約法 第5条)

手引きの中でも、産業医等の役割として「安全配慮義務に関する助言」が挙げられています(同 3(3)ウ(エ))。また情報収集の範囲について「職場復帰支援と事業者の安全配慮義務の履行を目的とした内容に限定すべき」とされています(同 5(1))。

なお、復職可否をめぐる紛争については、手引き自身がこう述べています。

ただし、疾病のり患を理由に休職した労働者の職場復帰の可否に関しては、さまざまな判例が出されている。このため、トラブルを防止するためにも、法律の専門家等と相談し、適切な対応を図ることが求められる。

(同 6(2))

個別の法的判断は弁護士等の専門家の領域です。 本記事は手引きの内容の紹介にとどめます。

よくある質問

Q. 主治医が「復職可」と書いた診断書があれば、復職させなければいけませんか

手引きは、主治医の診断書が「ただちにその職場で求められる業務遂行能力まで回復しているか否かの判断とは限らない」と述べ、産業医等が精査したうえで意見を述べることを求めています。最終的な職場復帰の決定は事業者が行うものと位置づけられています(第4ステップ)。

Q. 産業医がいない会社はどうすればよいですか

手引きは、50人未満の小規模事業場について、人事労務管理スタッフや衛生推進者・安全衛生推進者が主治医と連携しながら、地域産業保健センター等の事業場外資源を活用して進めることを示しています。

Q. リハビリ出勤は無給で行ってよいですか

手引きは、試し出勤制度等の導入にあたって処遇や災害発生時の対応をあらかじめ労使間で検討し、ルールを定めておく必要があるとしています。そのうえで、使用者が作業の指示を与えたり作業内容が業務に当たる場合などには労働基準法等が適用される場合があること(災害が発生した場合は労災保険給付が支給される場合があること)、賃金等について合理的な処遇を行うべきことに留意するよう求めています。

Q. 復職後はどの部署に戻すのがよいですか

手引きは「まずは元の職場への復帰」を原則としています。ただし異動等を誘因として発症したケースでは、以前の職場に戻すか他の職場への異動を積極的に考慮したほうがよい場合があるとしています。

Q. 短時間勤務にする場合、朝を遅くするのと夕方を早くするのとどちらがよいですか

手引きは、適切な生活リズムが整っていることが望ましいという観点から、始業時間を遅らせるのではなく終業時間を早めるほうが望ましいとしています。

Q. 職場に病名を伝える必要はありますか

手引きは、関係者間で必要な情報を「職場で配慮すべき内容を中心とし、病態や機能に関する最小限の情報」とし、具体的な疾患名は必ずしもこれに含まれないとしています。

まとめ

  • 厚労省の手引きは法令ではなく事業場向けマニュアルです。ただし復職判断について公的にまとまった記述はほぼこれだけです
  • 主治医の診断書は病状の回復程度の判断であって、その職場の業務遂行能力の判断とは限らないと手引きが明記しています
  • 主治医に診断書を依頼する前に、職場で必要とされる業務遂行能力や社内勤務制度の情報を渡すことが望ましいとされています
  • 第3ステップの評価項目は具体的です(睡眠覚醒リズム・昼間の眠気・注意力集中力・安全な通勤・業務類似行為と疲労回復)
  • 試し出勤には模擬出勤・通勤訓練・試し出勤の3類型。処遇と災害時の対応を事前に決めておくことが求められます
  • 復職先は「まずは元の職場」が原則。ただし異動が発症の誘因なら別です
  • 短時間勤務は始業を遅らせるより終業を早めるほうが望ましいとされています
  • 50人未満でも、事業場外資源を活用して進めることが想定されています

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参考・出典

  • 厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成16年10月。改訂 平成21年3月、改訂 平成24年7月)
  • 労働契約法 第5条(e-Gov法令検索)

本記事に記載の法令・通達は、2026年9月16日時点の内容を確認しています。法令・通達は改正されることがありますので、実務では最新の原文をご確認ください。