この記事でわかること
- 診断書を受け取ったとき、会社が最初にやるべきこと
- 主治医の診断書と、産業医の「就業上の意見」の違い
- 産業医がいない50人未満の会社が使える相談先と、その順番
社内に相談できる医師がいないという会社の方へ(この記事の執筆元)
筆者は現役の医師・産業医です。株式会社MeIXでは、信頼できる産業医ネットワークにより、オンラインの単発面談から嘱託契約まで提供しています。「診断書が出てきたが、どう扱えばよいか分からない」というご相談にも対応しています。→ 30分の無料オンライン相談はこちら
まず押さえる:会社には安全配慮義務がある
労働契約法は、事業者の義務を次のように定めています。
使用者は、労働契約に伴い、労働者がその生命、身体等の安全を確保しつつ労働することができるよう、必要な配慮をするものとする(労働契約法第5条)
あわせて労働安全衛生法は、長時間労働者や高ストレス者の面接指導の対象にならない労働者でも、健康への配慮が必要な者については必要な措置を講ずるよう努めなければならないとしています(第66条の9)。従業員50人未満の事業場も対象です。
「産業医がいないから何もできない」ではなく、社外の医師の意見を得たうえで判断することが、会社としての合理的な対応になります。
診断書を受け取ったら:最初の3ステップ
ステップ1:事実を整理する(診断名を詮索しない)
確認するのは、就業に関わる事実です。
- 診断書に書かれている療養の要否・期間の見込み
- 就業上の配慮に関する記載の有無(時間外労働の制限、業務内容の変更など)
- 本人の希望(休みたいのか、働き続けたいのか)
- 現在の業務内容・労働時間・勤務形態
診断名そのものを掘り下げて聞くことは、就業上の判断には必ずしも必要ありません。健康情報は機微な個人情報であり、収集は必要最小限にとどめるのが原則です(厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」平成30年9月7日公示第1号、令和4年3月31日改正公示第2号)。
ステップ2:社内の窓口と共有範囲を決める
誰が本人と連絡を取り、誰まで情報を共有するかを最初に決めます。管理職に共有するのは、業務調整に必要な範囲(就業上の措置の目的・内容)に限定するのが原則です。
ステップ3:医師の意見を得る
主治医の診断書だけでは、就業の可否や必要な配慮を会社が判断する材料としては足りないことがあります。ここで産業医(または外部の医師)の意見が必要になります。
主治医の診断書と、産業医の意見は役割が違う
| 主治医の診断書 | 産業医(医師)の就業上の意見 | |
|---|---|---|
| 立場 | 本人の治療を担当 | 事業者に対して就業上の意見を述べる |
| 判断の軸 | 病状・治療の必要性 | その会社のその業務に、いまの状態で就けるか |
| 使う情報 | 診察所見・検査 | 病状の情報+業務内容・労働時間・作業環境 |
| 出てくる言葉 | 「◯か月の療養を要する」等 | 通常勤務/就業制限/要休業と、必要な配慮の内容 |
厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成16年10月策定、平成21年3月改訂)も、主治医の診断書について「主治医による診断書の内容は、病状の回復程度を中心に記載されていることが多く、労働者や家族の希望が含まれている場合もある」と指摘しています。
そのうえで、診断書の内容だけでは十分な職場復帰支援を行うのが困難な場合、産業医等は本人の同意を得たうえで、必要な内容について主治医から情報や意見を収集するとしています。
休職・復職は「5つのステップ」で考える
同手引きは、職場復帰支援の流れを次の5段階に整理しています。
| ステップ | 内容 |
|---|---|
| 第1 | 病気休業開始および休業中のケア(診断書の提出、休業中の連絡・説明) |
| 第2 | 主治医による職場復帰可能の判断(復職診断書の提出) |
| 第3 | 職場復帰の可否の判断および職場復帰支援プランの作成(情報の収集と評価) |
| 第4 | 最終的な職場復帰の決定(就業上の措置等に関する意見書、事業者の決定) |
| 第5 | 職場復帰後のフォローアップ(再燃の確認、プランの評価と見直し) |
重要なのは、第3ステップの「情報の収集と評価」を誰が行うかです。手引きは、産業医が選任されていない50人未満の小規模事業場について、次のように述べています。
産業医が選任されていない50人未満の小規模事業場においては、人事労務管理スタッフ及び管理監督者等が、又は衛生推進者若しくは安全衛生推進者が、主治医との連携を図りながら、また地域産業保健センター、労災病院勤労者メンタルヘルスセンター等の事業場外資源も活用しながら検討を進めていくことが必要である
つまり、外部資源を使うことが前提として書かれているということです。
産業医がいない会社の相談先:使う順番
1. 地域産業保健センター(地さんぽ)=無料
独立行政法人労働者健康安全機構が全国350か所(おおむね労働基準監督署単位)に設置しています。50人未満の事業場を対象に、医師の面接指導や健康相談を無料で利用できます。
ただし、厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)には、「いわゆる大企業の営業所等である小規模事業場で、本社等で選任されている産業医等の協力を得られるような場合は、ご利用いただけないことがあります」との記載があります。多拠点企業の小規模拠点は、利用可否を先に確認してください。
2. 単発のオンライン面談(スポット面談)
日程が合わない、対象外、あるいは会社側が就業上の意見書まで求めたい場合は、外部の医師に1回単位で依頼する方法があります。当社では基本料金2万円(業務時間30分まで・税別)から、就業区分の意見を記載した簡易所見書のPDFをお渡ししています。
3. リモートの顧問・嘱託契約
相談が続くことが見込まれる場合や、体制として整えたい場合は月額契約のほうが扱いやすくなります(リモート産業医は月3万円〜・税別)。
面談を依頼するときに用意しておくもの
医師が就業上の意見を述べるには、業務側の情報が要ります。次を1枚にまとめておくと、判断が速く正確になります。
- 職種・具体的な業務内容(責任の重さ、対人業務の有無など)
- 労働時間(時間外・深夜業の有無、直近数か月の推移)
- 勤務形態(交代制、在宅勤務の可否、通勤時間)
- 作業環境(高所・運転・重量物・暑熱等の有無)
- 会社として調整可能な範囲(業務量の調整、配置転換、時短勤務の可否)
- 本人の希望と、これまでの経緯
やってはいけない3つのこと
- 診断名を社内で共有する:会社が扱うのは就業上必要な範囲の情報に限ります
- 本人の同意なく主治医に問い合わせる:主治医との連携には、事前に本人への説明と同意が必要です
- 医師の意見を得ずに退職勧奨・解雇の判断をする:安全配慮義務の観点からも、就業上の措置は医師の意見を勘案して判断するのが原則です
よくある質問
Q1. 産業医がいない会社でも、休職・復職の対応は必要ですか?
A1. 必要です。安全配慮義務(労働契約法5条)と、健康への配慮が必要な労働者への措置の努力義務(安衛法66条の9)は事業場の人数を問いません。
Q2. 主治医の「復職可」の診断書があれば、そのまま復職させてよいですか?
A2. 主治医の判断は病状の回復を中心にしたものです。厚生労働省の手引きは、情報の収集と評価を経て事業者が最終決定する流れを示しています。
Q3. 診断名は聞いてよいのですか?
A3. 就業上の判断に必要な範囲を超えた情報の収集は避けるべきとされています。必要なのは「何ができて、何に配慮が必要か」です。
Q4. 産業医と契約していなくても面談を頼めますか?
A4. できます。50人未満の事業場は地域産業保健センターの無料支援を利用できるほか、外部の医師に1回単位で依頼することも可能です。
Q5. 費用はどのくらいかかりますか?
A5. 地域産業保健センターは無料です。当社の単発面談は基本料金2万円(業務時間30分まで・税別)からで、簡易所見書のPDFをお付けしています。
まとめ
診断書が出てきたときにまずやるべきは、就業に関わる事実の整理と、医師の意見を得るルートの確保です。主治医の診断書と産業医の就業上の意見は役割が異なり、会社の判断材料としては後者が必要になります。産業医がいない会社でも、厚生労働省の手引きは外部資源の活用を前提に書かれています。まず地域産業保健センターで対応できる範囲を確認し、足りない部分を単発面談で補う順序が現実的です。
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参考・出典:労働契約法第5条/労働安全衛生法第66条の9(e-Gov法令検索)/厚生労働省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(平成16年10月策定・平成21年3月改訂)/厚生労働省「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」(平成30年9月7日公示第1号・令和4年3月31日改正公示第2号)/厚生労働省「小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル」(令和8年2月)/地域産業保健センター(こころの耳・厚生労働省)
本記事に記載の法令・通達は、2026年9月16日時点の内容を確認しています。法令・通達は改正されることがありますので、実務では最新の原文をご確認ください。

