この記事の要点
労働施策総合推進法の改正により、治療と仕事の両立支援は2026年4月1日から事業主の努力義務になりました。告示された指針が求める環境整備と50人未満の進め方まで、原文をもとに産業医が整理しました。
執筆・監修:小正 晃裕(医師・日本医師会認定産業医。詳しいプロフィールは記事末尾)|最終更新日:2026年10月19日
この記事でわかること
- 2026年4月1日から努力義務になったこと(根拠条文つき)
- 指針が「あってはならない」と明記した対応
- 会社が整えるべき環境整備4点と、支援の5ステップ
- 産業医がいない50人未満の事業場での進め方
- メンタル不調による休職からの復職支援との違い
両立支援の体制づくりでお困りの方へ(この記事の執筆元)
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2026年4月1日から、努力義務になりました
まず条文です。
第二十七条の三
事業主は、疾病、負傷その他の理由により治療を受ける労働者について、就業によつて疾病又は負傷の症状が増悪すること等を防止し、その治療と就業との両立を支援するため、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の必要な措置を講ずるよう努めなければならない。
(労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律 第27条の3第1項)
2026年4月1日施行です。 法改正により、治療と仕事の両立支援は事業主の努力義務になりました。
同条第2項に基づいて厚生労働大臣が定めた指針が、「治療と就業の両立支援指針」(令和8年厚生労働省告示第28号)です。令和8年2月10日に告示され、令和8年4月1日から適用されています。
以下、この指針の原文に沿って整理します。
対象になるのは、どんな疾病か
指針は対象を次のように定めています。
本指針が対象とする疾病(負傷を含む。以下同じ。)は、国際疾病分類(中略)に掲げられている疾病であって、医師の診断により、増悪の防止等のため反復・継続して治療が必要と判断され、かつ、就業の継続に配慮が必要なものとする。
(治療と就業の両立支援指針 1)
がんに限りません。 糖尿病・心疾患・脳血管疾患・肝炎・難病など、反復・継続して治療が必要で就業継続に配慮が要るものが広く対象になります。
さらに次の3点が明記されています。
| # | 内容 |
|---|---|
| 1 | 既に雇用している労働者への対応が念頭だが、治療が必要な者を新たに採用する際にも参考にできる |
| 2 | 雇用形態にかかわらず、労働者すべてが対象 |
| 3 | 主に事業主・人事労務担当者・産業保健スタッフ向けだが、労働者本人や家族、医療機関の関係者にも活用可能 |
指針が「あってはならない」と書いた対応
留意事項の冒頭に、強い表現があります。
治療と就業の両立支援に際しては、就業によって、疾病の増悪や再発、労働災害が生じないよう、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の適切な就業上の措置及び治療に対する配慮を行うことが就業の前提となる。したがって、業務の繁忙等を理由に必要な就業上の措置及び治療に対する配慮を行わないことはあってはならない。
(同 3(1))
「忙しいから今回は無理」は指針上、認められていません。
もうひとつ、判断の方向について。
・疾病のり患をもって安易に就業を禁止せず、主治医や産業医等の意見を勘案し、可能な限り配置転換、作業時間の短縮その他の必要な措置を講じて就業の機会を失わせないよう留意する
(同 3(4))
「病気なら休ませる」ではなく「働き続けられる方法を探す」という順序が、指針の立場です。
起点は本人の申出
一方で、会社が先回りして動く制度ではありません。
治療と就業の両立支援は、私傷病である疾病に関わるものであることから、労働者本人から支援を求める申出がなされたことを端緒に取り組むことが基本となる。なお、労働者本人からの申出が円滑に行われるよう、事業場内ルールの作成及び周知、労働者及び管理職等に対する研修による意識啓発並びに相談窓口及び情報の取扱方法の明確化等、申出が行いやすい環境を整備することも重要である。
(同 3(3))
申出を待つだけでは足りません。 申出しやすい環境を作るところまでが会社の役割とされています。
健康情報は、本人の同意なく取得できない
治療と就業の両立支援を行うためには、症状、治療の状況等の疾病に関する個人情報(以下「健康情報」という。)が必要となるが、当該情報は機微な情報であることから、安衛法に基づく健康診断において把握した場合を除いては、原則として、事業主が労働者本人の同意なく取得してはならない。
(同 3(8))
主治医とのやり取りについても、次の記述があります。
また、主治医の意見を求める際には、機微な健康情報を取り扱うこととなるため、産業医等がいる場合には産業医等を通じて情報のやり取りを行うことが望ましい。
(同 5(1))
人事担当者が直接主治医に問い合わせる前に、産業医等を通すのが望ましいとされています。
会社が整える環境(4点)
指針4は、支援を始める前に整えるべきものを挙げています。
| # | 環境整備 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 基本方針の表明と周知 | 衛生委員会等で調査審議を行ったうえで、基本方針や事業場内ルールを作成し、すべての労働者に周知 |
| 2 | 研修等による意識啓発 | すべての労働者および管理職に対して研修等を実施 |
| 3 | 相談窓口等の明確化 | 相談窓口と、申出が行われた場合の情報の取扱いを明確にする |
| 4 | 制度・体制の整備 | 休暇制度・勤務制度、対応手順と関係者の役割、情報共有の様式、実効性の確保 |
1で「衛生委員会等で調査審議」とされている点が実務上の要点です。衛生委員会の付議事項として扱うことになります。
休暇制度・勤務制度の例
指針が挙げているのは次のとおりです。
| 区分 | 制度 | 内容 |
|---|---|---|
| 休暇 | 時間単位の年次有給休暇 | 労使協定の締結により1時間単位で付与可能(年5日の範囲内) |
| 休暇 | 傷病休暇・病気休暇 | 事業主が自主的に設ける法定外の休暇。取得条件や処遇は事業場ごとに異なる |
| 勤務 | 時差出勤制度 | 身体に負担のかかる通勤時間帯を避ける |
| 勤務 | 短時間勤務制度 | 療養中・療養後の負担軽減 |
| 勤務 | 在宅勤務制度 | 通勤による身体への負担を軽減 |
| 勤務 | 試し出勤制度 | 長期休業者の円滑な職場復帰を支援 |
時間単位年休以外はすべて「事業主が自主的に設ける」制度です。法定の制度ではないため、就業規則に定めなければ使えません。
支援の進め方(5ステップ)
指針5は、次の流れを示しています。
| ステップ | 内容 | 主体 |
|---|---|---|
| 1 | 労働者が事業主に申出を行い、主治医から情報を収集して提出 | 労働者本人 |
| 2 | 主治医の情報を産業医等に提供し、就業継続の可否・就業上の措置・治療への配慮について意見を聴取 | 事業主 |
| 3 | 主治医や産業医等の意見を勘案し、就業継続の可否を判断 | 事業主 |
| 4 | 就業継続が可能なら両立支援プランを作成し、措置と配慮を実施・フォローアップ | 事業主 |
| 5 | 長期休業が必要なら休業前対応・休業中フォロー・職場復帰の可否判断・職場復帰支援プラン | 事業主 |
主治医から得るべき4つの情報
ステップ1で、労働者が主治医から提供を受けることが望ましいとされる情報です。
ア 症状、治療の状況
・現在の症状
・入院や通院による治療の必要性とその期間
・治療の内容やスケジュール
・通勤や業務遂行に影響を及ぼしうる症状や副作用の有無とその内容
イ 就業継続の可否に関する意見
ウ 望ましい就業上の措置に関する意見(避けるべき作業、時間外労働の制限、出張の可否等)
エ 治療に対する配慮が必要な事項に関する意見(通院時間の確保や休憩場所の確保等)
(同 5(1))
「働けるかどうか」だけでなく、「何を避けるべきか」「何を確保すべきか」まで聞く構成になっています。
両立支援プランに盛り込む3項目
① 治療、投薬等の状況及び今後の治療、通院の予定
② 就業上の措置及び治療に対する配慮の具体的内容並びに実施時期・期間
③ フォローアップの方法及びスケジュール(産業保健スタッフや人事労務担当者等による面談等)
(同 5(4)ア)
指針は、「治療の終了後すぐに通常の勤務に復帰できるとは限らない」ことに留意するよう求めています(同)。
産業医がいない50人未満の事業場では
指針は「産業医等」を次のように定義しています。
産業医又は労働者数が50人未満の事業場で労働者の健康管理等を行う医師(以下「産業医等」という。)
(同 1)
50人未満で選任義務がない場合でも、健康管理を行う医師が「産業医等」に含まれます。 そのうえで、医師がいない場合の対応も明記されています。
主治医から提供された情報が、治療と就業の両立支援の観点から十分でない場合は、産業保健スタッフがいる場合には、労働者本人の同意を得た上で、産業保健スタッフが主治医から更に必要な情報を収集することが望ましい。なお、産業保健スタッフがいない場合には、労働者本人の同意を得た上で、人事労務担当者等が主治医から必要な情報を収集することもできる。
(同 5(1))
事業主は、(中略)主治医から提供された情報を産業医等に対して提供し、(中略)意見を聴取することが重要である。産業医等がいない場合は、主治医から提供された情報を参考とする。
(同 5(2))
産業医がいないことは、両立支援をしない理由にはなりません。 ただし、就業継続の可否という判断を人事労務担当者だけで行うのは負担が大きく、医学的な妥当性の担保も難しくなります。
指針は事業場外の資源の活用も挙げています。
都道府県の産業保健総合支援センター、労災病院に併設する治療就労両立支援センター、保健所等の保健師、社会保険労務士等
(同 3(9)ウ)
50人未満で医師の関与が必要になる場面全般は50人未満でも医師の対応が必要になる4つの場面で整理しています。単発で医師に依頼する方法は産業医のスポット利用(単発面談)とはをご覧ください。
メンタル不調の休職からの復職支援とは、別の枠組みです
似ていますが、根拠も対象も異なります。
| 治療と仕事の両立支援 | 心の健康問題による職場復帰支援 | |
|---|---|---|
| 根拠 | 労働施策総合推進法27条の3(努力義務)+告示第28号 | 厚労省「心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き」(事業場向けマニュアル) |
| 対象疾病 | 国際疾病分類上の疾病で、反復・継続して治療が必要なもの(身体疾患を含む) | 心の健康問題により休業した労働者 |
| 主な場面 | 働き続けながら治療する(休業を伴わない場合を含む) | 休業からの復帰 |
| 起点 | 労働者本人の申出 | 病気休業診断書の提出 |
両立支援は「休まずに働き続ける」場面を含む点が大きな違いです。もっとも、指針5(5)は長期休業と職場復帰も扱っており、重なる部分もあります。
メンタル不調による休職からの復職判断については「主治医が復職可と書いているので明日から」は危ないで詳しく扱っています。
よくある質問
Q. 努力義務なので、やらなくても罰則はありませんか
労働施策総合推進法27条の3第1項は「講ずるよう努めなければならない」と定めており、努力義務です。ただし同条第4項により、厚生労働大臣は指針に従い事業主またはその団体に対し必要な指導、援助等を行うことができるとされています。
Q. がん以外も対象ですか
対象は、国際疾病分類に掲げられている疾病であって、医師の診断により増悪の防止等のため反復・継続して治療が必要と判断され、かつ就業の継続に配慮が必要なものとされています(指針1)。がんに限定されていません。
Q. パート・アルバイトも対象ですか
指針は「雇用形態に関わらず、労働者全てを対象とする」としています(指針1)。
Q. 会社から本人に「病気ではないか」と聞いてよいですか
健康情報は、安衛法に基づく健康診断で把握した場合を除き、原則として本人の同意なく取得してはならないとされています(指針3(8))。両立支援は本人からの申出を端緒とすることが基本です(同3(3))。
Q. 産業医がいない場合、誰が主治医とやり取りしますか
産業保健スタッフがいない場合は、労働者本人の同意を得たうえで人事労務担当者等が主治医から必要な情報を収集することもできるとされています(指針5(1))。ただし機微な健康情報を扱うため、医師を通すことが望ましいとされています。
Q. 忙しい時期なので配慮を先送りしてよいですか
指針は「業務の繁忙等を理由に必要な就業上の措置及び治療に対する配慮を行わないことはあってはならない」と明記しています(指針3(1))。
まとめ
- 治療と仕事の両立支援は、2026年4月1日から事業主の努力義務(労働施策総合推進法27条の3第1項)
- 指針は令和8年厚生労働省告示第28号「治療と就業の両立支援指針」(令和8年4月1日適用)
- 対象はがんに限らず、反復・継続して治療が必要で就業継続に配慮が要る疾病全般。雇用形態を問わない
- 「業務の繁忙等を理由に配慮を行わないことはあってはならない」と明記されています
- 疾病のり患をもって安易に就業を禁止せず、働き続けられる方法を探す順序
- 起点は本人の申出。ただし申出しやすい環境を整えるところまでが会社の役割
- 健康情報は本人の同意なく取得できない(健診で把握した場合を除く)
- 環境整備は基本方針の表明(衛生委員会等での調査審議)・研修・相談窓口・制度整備の4点
- 産業医がいなくても進められます。産業保健総合支援センター等の活用も指針に明記
両立支援の体制づくりをご検討中の方へ
株式会社MeIXでは、治療と就業の両立に関する医師面談・主治医への情報提供依頼・意見書の作成をオンラインで完結する形で、全国対応で提供しています。「申出があったが何から手を付ければよいか分からない」という段階のご相談にも対応しています。→ お問い合わせフォームはこちら(メールでお返事します)
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参考・出典
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律 第27条の3(e-Gov法令検索)
- 治療と就業の両立支援指針(令和8年厚生労働省告示第28号・令和8年2月10日告示/令和8年4月1日適用)
- 労働安全衛生法 第62条・第66条・第68条・第69条、労働安全衛生規則 第61条
本記事に記載の法令・通達は、2026年9月16日時点の内容を確認しています。法令・通達は改正されることがありますので、実務では最新の原文をご確認ください。

