この記事の要点
実施者になれるのは医師・保健師と、研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師です。人事権を持つ人が外れるのは実施者ではなく「実施の事務」全般。条文をもとに産業医が整理しました。
執筆・監修:小正 晃裕(医師・日本医師会認定産業医。詳しいプロフィールは記事末尾)|最終更新日:2026年10月19日
この記事でわかること
- 実施者になれる人と、研修が要る人・要らない人の違い
- 「実施者」と「実施の事務に従事する者」は別であること
- 人事権を持つ人が外れるのはどちらの範囲か(ここを取り違えると社内の担当割りを間違えます)
- 結果を会社が受け取るために必要な同意の形式
- 守秘義務と罰則
ストレスチェックの実施先をお探しの方へ(この記事の執筆元)
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まず、法律は「誰が行うか」をどう書いているか
第六十六条の十(心理的な負担の程度を把握するための検査等)
事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師、保健師その他の厚生労働省令で定める者(以下この条において「医師等」という。)による心理的な負担の程度を把握するための検査を行わなければならない。
(労働安全衛生法 第66条の10第1項)
検査を行うのは「医師等」であって、会社ではありません。 会社の役割は「医師等に検査を行わせること」です。この構造が、以下すべての前提になります。
実施者になれるのは6つの職種(ただし条件が違う)
第五十二条の十(検査の実施者等)
法第六十六条の十第一項の厚生労働省令で定める者は、次に掲げる者(以下この節において「医師等」という。)とする。
一 医師
二 保健師
三 検査を行うために必要な知識についての研修であつて厚生労働大臣が定めるものを修了した歯科医師、看護師、精神保健福祉士又は公認心理師
(労働安全衛生規則 第52条の10第1項)
| 職種 | 研修 |
|---|---|
| 医師 | 不要 |
| 保健師 | 不要 |
| 歯科医師 | 必要 |
| 看護師 | 必要 |
| 精神保健福祉士 | 必要 |
| 公認心理師 | 必要 |
医師と保健師だけが研修なしで実施者になれます。 看護師や公認心理師は、資格を持っているだけでは実施者になれません。厚生労働大臣が定める研修の修了が条件です。
外部委託を検討するときは、「担当するのは誰で、研修修了者かどうか」を確認する材料になります。委託先選びの観点はストレスチェックの外部委託先を選ぶ7つのチェックポイントで整理しています。
ここが取り違えられやすい:「実施者」と「実施の事務」
ストレスチェックには、実施者のほかに実施の事務に従事する人がいます。調査票の配布、受検の勧奨、回答の回収、データの入力、結果の送付などです。
そして条文が制限をかけているのは、実施者だけではありません。
2 検査を受ける労働者について解雇、昇進又は異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある者は、検査の実施の事務に従事してはならない。
(労働安全衛生規則 第52条の10第2項)
「実施者になってはならない」ではなく「実施の事務に従事してはならない」と書かれています。
| 内容 | 人事権を持つ人は | |
|---|---|---|
| 実施者 | 検査の実施そのもの。医師・保健師・研修修了した4職種 | そもそも職種要件を満たさなければ就けない |
| 実施の事務に従事する者 | 調査票の配布・回収、受検勧奨、データ入力、結果の送付など | 条文で明確に禁止 |
具体的に誰が該当するか
条文の要件は3つです。
| # | 要件 |
|---|---|
| 1 | 検査を受ける労働者についての権限であること |
| 2 | 解雇、昇進又は異動に関する権限であること |
| 3 | 直接の権限を持つ監督的地位にあること |
人事部に所属しているかどうかではなく、その労働者の解雇・昇進・異動に直接の権限を持つ監督的地位にあるかで判断する書き方になっています。
「人事担当者に受検勧奨と回答回収を任せる」という運用は、担当者がこの要件に当たる場合、条文に反します。 社内で事務を回す場合は、担当者の権限を確認したうえで割り振る必要があります。
結果を会社が受け取るには本人の同意が要る
2 事業者は、前項の規定により行う検査を受けた労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、当該検査を行つた医師等から当該検査の結果が通知されるようにしなければならない。この場合において、当該医師等は、あらかじめ当該検査を受けた労働者の同意を得ないで、当該労働者の検査の結果を事業者に提供してはならない。
(労働安全衛生法 第66条の10第2項)
結果はまず本人に通知されます。会社に渡るのは、本人が同意した場合だけです。
同意の取り方も定められています。
法第六十六条の十第二項後段の規定による労働者の同意の取得は、書面又は電磁的記録によらなければならない。
(労働安全衛生規則 第52条の13第1項)
口頭での同意は認められていません。 そして同意を得て結果の提供を受けた場合、会社はその記録を5年間保存しなければなりません(同条第2項)。
面接指導の申出を理由に不利益な扱いをしてはならない
3 事業者は、前項の規定による通知を受けた労働者であつて、心理的な負担の程度が労働者の健康の保持を考慮して厚生労働省令で定める要件に該当するものが医師による面接指導を受けることを希望する旨を申し出たときは、当該申出をした労働者に対し、(中略)医師による面接指導を行わなければならない。この場合において、事業者は、労働者が当該申出をしたことを理由として、当該労働者に対し、不利益な取扱いをしてはならない。
(労働安全衛生法 第66条の10第3項)
申出があれば面接指導は義務です。産業医契約がなく面接指導の医師が見つからない場合の対応はストレスチェックは実施済み、でも面接指導の医師がいないをご覧ください。
面接指導のあとは、医師の意見聴取(同条第5項)、必要な措置と衛生委員会等への報告(同条第6項)と続きます。
守秘義務と罰則
第百五条(健康診断等に関する秘密の保持)
(中略)第六十六条の十第一項の規定による検査又は同条第三項の規定による面接指導の実施の事務に従事した者は、その実施に関して知り得た労働者の秘密を漏らしてはならない。
(労働安全衛生法 第105条)
ここでも「実施の事務に従事した者」です。 実施者だけでなく、事務を担当した人全員に守秘義務がかかります。
罰則もあります。
次の各号のいずれかに該当する場合には、当該違反行為をした者は、六月以下の拘禁刑又は五十万円以下の罰金に処する。
一 (中略)第百五条(中略)の規定に違反したとき。
(労働安全衛生法 第119条第1号)
社内で事務を担当してもらう場合は、この義務と罰則を担当者に説明しておく必要があります。
50人未満の事業場の扱い
ストレスチェックは、労働者数50人未満の事業場では当分の間の努力義務とされてきました。2025年5月に公布された改正労働安全衛生法により、令和10年(2028年)4月1日から50人未満の事業場にも義務化されます(厚生労働省)。
義務化に向けた準備は【2028年義務化対応】50人未満のストレスチェック実施方法・流れで扱っています。
なお努力義務の段階でも、実施するのであれば実施者・実施事務従事者の要件は同じです。 「努力義務だから人事担当者が回してよい」ということにはなりません。
よくある質問
Q. 産業医がいれば実施者は産業医でよいですか
安衛則52条の10第1項は医師を実施者として挙げているため、条文上は可能です。厚生労働省の指針では、事業場の状況を把握している産業医等が実施者となることが望ましいとされています。
Q. 社内の看護師に実施者を頼めますか
看護師が実施者になるには、検査を行うために必要な知識についての研修であって厚生労働大臣が定めるものを修了している必要があります(安衛則52条の10第1項3号)。資格だけでは要件を満たしません。
Q. 人事部の社員に受検勧奨や結果の回収を任せてよいですか
その社員が、検査を受ける労働者について解雇・昇進・異動に関して直接の権限を持つ監督的地位にある場合、検査の実施の事務に従事することはできません(安衛則52条の10第2項)。所属部署ではなく権限で判断されます。
Q. 本人の同意は口頭でもよいですか
いいえ。同意の取得は書面または電磁的記録によらなければならないと定められています(安衛則52条の13第1項)。
Q. 会社が結果を受け取ったあと、記録は何年保存しますか
5年間です(安衛則52条の13第2項)。
Q. 守秘義務に違反するとどうなりますか
労働安全衛生法105条に違反した場合、同法119条1号により6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金に処せられます。
まとめ
- 検査を行うのは「医師等」であって会社ではありません(安衛法66条の10第1項)
- 実施者になれるのは医師・保健師(研修不要)と、研修を修了した歯科医師・看護師・精神保健福祉士・公認心理師(安衛則52条の10第1項)
- 人事権を持つ人が外れるのは「実施の事務」全般。実施者だけの話ではありません(同条第2項)
- 判断基準は所属部署ではなく、その労働者の解雇・昇進・異動に直接の権限を持つ監督的地位にあるか
- 結果を会社が受け取るには本人の同意が必要で、書面または電磁的記録に限られます(安衛則52条の13第1項)
- 会社が受け取った結果の記録は5年間保存(同条第2項)
- 面接指導の申出を理由とする不利益取扱いは禁止(安衛法66条の10第3項)
- 守秘義務は実施の事務に従事した者全員にかかり、違反には6月以下の拘禁刑又は50万円以下の罰金(安衛法105条・119条1号)
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参考・出典
- 労働安全衛生法 第66条の10・第105条・第119条(e-Gov法令検索)
- 労働安全衛生規則 第52条の10・第52条の11・第52条の13(e-Gov法令検索)
- 厚生労働省「ストレスチェック制度・メンタルヘルス対策」
本記事に記載の法令・通達は、2026年9月16日時点の内容を確認しています。法令・通達は改正されることがありますので、実務では最新の原文をご確認ください。

