この記事の要点
2026年4月1日、労働安全衛生法62条の2により高年齢者の労働災害防止措置が事業者の努力義務になりました。同日適用のエイジフレンドリー指針の原文から、5つの取組、対策の優先順位、体力チェックの注意点、補助金の3コースまでを産業医が整理します。旧ガイドラインは同日廃止です。

執筆・監修:小正 晃裕(医師・日本医師会認定産業医。詳しいプロフィールは記事末尾)|最終更新日:2026年10月19日

「60代の社員が転んで骨折した」「本人は元気だと言うが、同じ作業を続けさせてよいのか」——産業医として入っていると、この相談が年々増えています。

そして2026年、この分野の法令が大きく動きました。

2026年4月1日、労働安全衛生法に第62条の2が加わり、高年齢者の労働災害防止措置が事業者の努力義務になりました。同じ日に、厚生労働大臣が定めた「高年齢者の労働災害防止のための指針」(エイジフレンドリー指針)が適用されています。

そして、これまで6年間この分野の拠り所だった「高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン」(旧エイジフレンドリーガイドライン)は、同じ日に廃止されました。

ネット上には旧ガイドラインを前提にした解説がまだ多く残っています。この記事では、条文と指針の原文から、2026年4月以降に会社が何をすればよいのかを整理します。

この記事でわかること

  • 2026年4月に何が変わったのか(通達の「ガイドライン」から、法律に基づく「指針」へ)
  • 安衛法62条と62条の2は別の条文であること
  • 指針が求める5つの取組と、その優先順位
  • リスクアセスメントの対策には、ア〜エの順番が決まっていること
  • 体力チェックの具体的な手法と、やってはいけない使い方
  • 50人未満の事業場はどうするか
  • エイジフレンドリー補助金の3コースと補助率

「高年齢の従業員が増えてきた」という会社へ(この記事の執筆元)

筆者は現役の医師・産業医です。株式会社MeIXでは、職場巡視での転倒リスクの確認、衛生委員会での高年齢者対策の審議資料づくり、就業上の措置についての意見まとめをお手伝いしています。産業医との契約がない会社でも、1回からご利用いただけます。→ お問い合わせフォームはこちら(メールでお返事します)

1. 結論:2026年4月から、法律上の努力義務になりました

先に結論を4つ。

#結論
1労働安全衛生法62条の2により、高年齢者の労働災害防止措置は事業者の努力義務になりました(2026年4月1日施行)
2その具体化として「高年齢者の労働災害防止のための指針」(エイジフレンドリー指針)が適用されています
3旧エイジフレンドリーガイドラインは2026年4月1日に廃止されました
4指針が求めるのは5つの取組。出発点はリスクアセスメントです

新しい条文を読んでみます

(高年齢者の労働災害防止のための措置)

第六十二条の二 事業者は、高年齢者の労働災害の防止を図るため、高年齢者の特性に配慮した作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置を講ずるように努めなければならない。

2 厚生労働大臣は、前項の事業者が講ずべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るため必要な指針を公表するものとする。

3 厚生労働大臣は、前項の指針に従い、事業者又はその団体に対し、必要な指導、援助等を行うことができる。

(労働安全衛生法)

3つの項を分けて読むと、法律の作りが見えてきます。

  • 1項:事業者の努力義務。「講ずるように努めなければならない」
  • 2項:厚生労働大臣が指針を公表する。これがエイジフレンドリー指針です
  • 3項:その指針に従って、国が指導・援助を行える

罰則はありません。 しかし3項によって、労働基準監督署が指針に沿った指導を行う根拠ができました。ここが、これまでとの実質的な違いです。

2. 何が変わったのか:「通達」から「法律に基づく指針」へ

扱っている中身は、実はそれほど大きく変わっていません。 変わったのは法的な位置づけです。

項目2026年3月まで2026年4月から
名称高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(エイジフレンドリーガイドライン)高年齢者の労働災害防止のための指針(エイジフレンドリー指針)
根拠通達(令和2年3月16日 基安発0316第1号)労働安全衛生法62条の2第2項
発出者厚生労働省労働基準局安全衛生部長厚生労働大臣(公示第1号)
事業者の義務法律上の規定なし努力義務(62条の2第1項)
国の指導通達に基づく行政指導法律上の根拠あり(62条の2第3項)
状態2026年4月1日 廃止2026年2月10日公示・4月1日適用

この改正はどこから来たのか

改正の根拠は、「労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律」(令和7年法律第33号)です。

この改正法は、①個人事業者等への安全衛生対策 ②職場のメンタルヘルス対策(50人未満の事業場へのストレスチェック義務化)③化学物質対策 ④機械等による労働災害防止 ⑤高齢者の労働災害防止の推進——の5本立てで、高年齢者関係は令和8年(2026年)4月1日施行です。

同じ改正法には、ストレスチェックの全事業場への義務化も含まれています。こちらは施行が「公布後3年以内に政令で定める日」とされており、高年齢者関係より後になります。詳しくはストレスチェックの記事をご覧ください。

【重要】古い情報に注意してください

「エイジフレンドリーガイドライン」で検索すると、廃止前の解説が多数出てきます。 内容が大きく違うわけではありませんが、根拠条文・名称・法的位置づけが変わっています。 社内規程や衛生委員会の資料に「ガイドライン」と書いてある場合は、「指針」に改めておくことをおすすめします。

3. 安衛法62条と62条の2は、別の条文です

ここを混同している解説をよく見かけます。2つとも現役の条文で、内容が違います。

(中高年齢者等についての配慮)

第六十二条 事業者は、中高年齢者その他労働災害の防止上その就業に当たつて特に配慮を必要とする者については、これらの者の心身の条件に応じて適正な配置を行なうように努めなければならない。

(労働安全衛生法)

62条62条の2
見出し中高年齢者等についての配慮高年齢者の労働災害防止のための措置
対象中高年齢者「その他」配慮を必要とする者高年齢者
求めるもの適正な配置作業環境の改善、作業の管理その他の必要な措置
指針なしあり(エイジフレンドリー指針)
施行1972年(制定時から)2026年4月1日

62条は「誰にどの仕事をさせるか」(配置)の話、62条の2は「職場と作業のやり方をどう変えるか」(環境・管理)の話です。

実務では、この2つが組み合わさります。職場を直しても残るリスクについて、配置で調整する——という順番です。逆に、配置だけで対応しようとすると、高年齢の従業員から仕事を取り上げる結果になりかねません。

なお、62条は「中高年齢者その他」と書かれているとおり、高年齢者だけを対象とした条文ではありません。 障害のある方、疾病を抱えて働く方なども含みます。

4. なぜ法律が動いたのか:数字で見ると

厚生労働省が改正法の根拠として示した数字です。

令和5年の労働災害(休業4日以上の死傷者数)

区分人数
全年齢135,371人
うち60歳以上39,702人
60歳以上の割合29.3%

労働災害で4日以上休んだ人の、およそ3人に1人が60歳以上です。 そしてこの割合は増加傾向にあります。

厚生労働省は、高年齢者について次の2点を挙げています。

  • 他の世代と比べて、労働災害の発生率が高い
  • 災害が起きた際の休業期間が長い

「高齢者だから仕方ない」では済まない規模になっている、というのが立法の背景です。

現場で何が起きているか

指針が繰り返し触れているのは転倒です。

高年齢者にみられる転倒災害は危険に感じられない場所で発生していることも多いため、安全標識や危険箇所の掲示に留意するとともに、わずかな段差等の周りの環境にも常に注意を払うよう意識付けをすることが有効であること。

そして、こう続きます。

第三次産業の多くでみられる軽作業や危険と認識されていない作業であっても、災害に至る可能性があることを周知すること

「危ない現場」ではないところで起きている——ここが、この問題のやっかいなところです。

5. 指針が求める5つの取組

指針の「第2 事業者が講ずべき措置」は、1から5までに分かれています。

#取組中身
1安全衛生管理体制の確立等経営トップの方針表明・体制整備/安全衛生委員会等での調査審議/リスクアセスメント
2職場環境の改善身体機能の低下を補う設備・装置の導入/高年齢者の特性を考慮した作業管理
3健康や体力の状況の把握健康診断の確実な実施/体力チェック/情報の適正な取扱い
4健康や体力の状況に応じた対応就業上の措置/業務のマッチング/心身両面の健康保持増進
5安全衛生教育高年齢者への教育/管理監督者等への教育

指針は、この5つを並列に並べているのではありません。 冒頭にこう書かれています。

1で実施したリスクアセスメントの結果に基づき、…以下の2~5を参考に優先順位の高いものから取組事項を決めること。

つまり、1のリスクアセスメントが出発点です。 何から手をつけるかは、自社のリスクを洗い出してから決める、という構造になっています。

6. 取組1:体制づくりとリスクアセスメント

経営トップの方針表明

指針は、経営トップ自らが方針を表明することを求めています。

① 経営トップ自らが、高年齢者労働災害防止対策に取り組む姿勢を示し、企業全体の安全意識を高めるため、高年齢者労働災害防止対策に関する事項を盛り込んだ安全衛生方針を表明すること。

② 安全衛生方針に基づき、高年齢者労働災害防止対策に取り組む組織や担当者を指定する等により、実施体制を明確化すること。

担当部署について、指針は現実的な書き方をしています。

高年齢者労働災害防止対策を担当する組織としては、安全衛生部門が存在する場合には同部門が想定され、業種又は事業場の規模によっては、人事労務管理部門等が担当することも考えられること。

中小企業では安全衛生部門がないことが普通です。人事労務が担当してよいと明記されているのは、実務上ありがたい記述です。

衛生委員会で取り上げる

① 安全委員会、衛生委員会又は安全衛生委員会…を設けている事業場においては、高年齢者労働災害防止対策に関する事項を調査審議すること。

② 安全衛生委員会等を設けていない事業場においては、高年齢者労働災害防止対策について、労働者の意見を聴く機会等を通じ、労使で話し合うこと。

50人以上なら衛生委員会の議題に、50人未満でも労使で話し合う——という書き分けです。衛生委員会の付議事項に、高年齢者対策を1つ加えておくとよいでしょう。

リスクアセスメント:対策には順番が決まっている

ここが、この指針で最も実務的な部分です。

リスク低減措置については、次のア~エに掲げる優先順位で措置内容を検討の上、実施することに留意すること。

ア 危険な作業の廃止・変更等、設計や計画の段階から労働者の就業に係る危険性又は有害性を除去又は低減する措置

イ 手すりの設置や段差の解消等の工学的対策

ウ マニュアルの整備等の管理的対策

エ 身体負荷を軽減する個人用の装備の使用

優先対策の種類例
1番目危険そのものをなくすその作業をやめる/別のやり方に変える
2番目工学的対策手すりの設置、段差の解消
3番目管理的対策マニュアル整備、標識、教育
4番目個人用の装備アシストスーツ、防滑靴

「気をつけるように言う」(3番目)や「装備を配る」(4番目)は、優先順位が低い方に置かれています。

現場では、まず「注意喚起の貼り紙」から始めてしまいがちです。しかし指針の考え方では、段差を直せるなら直すのが先です。この順番は、労働安全衛生の世界で共通する原則(リスクアセスメント指針)に沿ったものです。

洗い出しの材料

指針は、災害事例やヒヤリハット事例から危険源を洗い出すよう求めています。厚生労働省の「職場のあんぜんサイト」に、労働災害事例とヒヤリ・ハット事例が公開されており、関係通達もこれを使うよう案内しています。

また、次の点も挙げられています。

高年齢者の状況に応じ、フレイルやロコモティブシンドロームについても考慮する必要があること。

社会福祉施設等で利用者の事故防止に関するヒヤリハット事例の収集に取り組んでいる場合、こうした仕組みを労働災害の防止に活用することが有効であること。

介護施設では、利用者の転倒についてのヒヤリハットはすでに集めているはずです。同じ仕組みを職員の労災にも使う——これは今日から始められます。

7. 取組2:職場環境の改善(設備が先、作業管理が後)

指針は、設備・装置の導入を先に検討する構造になっています。リーフレットでは、設備・装置の導入が「最優先」と明記されています。

設備・装置:指針が挙げている例

共通的な事項

  • 視力や明暗の差への対応力が低下することを前提に、通路を含めた作業場所の照度を確保し、照度が極端に変化する場所や作業の解消を図る
  • 階段には手すりを設け、可能な限り通路の段差を解消する
  • 床や通路の滑りやすい箇所に防滑素材(床材や階段用シート)を採用し、防滑靴を利用させる。滑りの原因となる水分・油分を放置せずに、こまめに清掃する
  • 墜落制止用器具、保護具等の着用を徹底する
  • やむをえず危険箇所を解消できない場合は、安全標識や危険箇所の掲示により注意喚起する

照度については、事務所であれば事務所衛生基準規則の基準(一般的な事務作業300ルクス以上)が最低ラインになります。

危険を知らせるための視聴覚に関する対応

  • 警報音等は、年齢によらず聞き取りやすい中低音域の音を採用する、音源の向きを適切に設定する、指向性スピーカーを用いる
  • 作業場内で定常的に発生する騒音(背景騒音)の低減に努める
  • 有効視野を考慮した警告・注意機器(パトライト等)を採用する

加齢では高音域から聞こえにくくなります。 高い電子音の警報を中低音に変えるだけで、届き方が変わることがあります。

暑熱な環境への対応

  • 一般に、高年齢者は暑さや水分不足に対する感覚機能が低下しており、暑さに対する身体の調節機能も低下しているので、涼しい休憩場所を整備し、利用を勧奨する
  • 保熱しやすい服装は避け、通気性の良い服装を準備する
  • 熱中症の初期症状を把握するのに有効なウェアラブルデバイス等のIoT機器を利用する

「暑い」「のどが渇いた」と感じにくくなる——これは高年齢労働者の熱中症対策の核心です。本人の自覚に任せない仕組みが要ります。

重量物・介護作業

  • 補助機器等の導入により人力取扱重量を抑制する
  • 作業台の高さや作業対象物の配置を改善し、不自然な作業姿勢を解消する
  • アシストスーツ等を導入する
  • リフト、スライディングシート等の導入により、抱え上げ作業を抑制する

情報機器作業

  • パソコン等を用いた情報機器作業では、照明、画面における文字サイズの調整、必要な眼鏡の使用等によって適切な視環境や作業方法を確保する

高年齢者のパソコン作業では、手元の視力(近見視力)が問題になります。情報機器作業ガイドラインの記事もあわせてご覧ください。

作業管理:指針が挙げている特性

指針は、低下しうる機能を具体的に6つ挙げています。

筋力、バランス能力、敏捷性、全身持久力、感覚機能及び認知機能の低下等の高年齢者の特性を考慮して、作業内容等の見直しを検討し、実施すること。

そのうえで、こうした対策が示されています。

  • 勤務形態や勤務時間を工夫する(短時間勤務、隔日勤務、交替制勤務等)
  • ゆとりのある作業スピード、無理のない作業姿勢に配慮した作業マニュアルを策定・改定する
  • 注意力や集中力を必要とする作業について作業時間を考慮する
  • 複数の作業を同時進行させる場合の負担や、優先順位の判断を伴う作業の負担を考慮する
  • 腰部に過度の負担がかかる作業は、重量物の小口化、取扱回数の減少等の改善を図る
  • 身体的な負担の大きな作業では、定期的な休憩の導入や作業休止時間の運用を図る

「複数の作業を同時にやらせない」は、見落とされがちですが効果の大きい対策です。

8. 取組3:健康と体力の状況を把握する

健康診断は「確実に実施する」

労働安全衛生法で定める雇入時及び定期の健康診断を確実に実施すること。

ここは新しい話ではありません。ただし指針は、その先を求めています。

健康診断の結果を高年齢者に通知するに当たり、産業保健スタッフから健康診断項目毎の結果の意味を丁寧に説明する等、高年齢者が自らの健康状況を把握できるような取組を実施することが望ましいこと。

結果票を配って終わりにしない。 健診後に事業者が行うことについては、医師の意見聴取の記事および健診結果の保管・閲覧範囲の記事もあわせてご覧ください。

体力チェック:具体的な手法が示されました

主に高年齢者を対象とした体力チェックを継続的に行うことが望ましいこと。

また、身体機能の低下は高年齢者に限られるものではないことから、事業場の実情に応じて、青年、壮年期から体力チェックを実施することが望ましいこと。

関係通達(令和8年2月25日付け基安安発0225第2号)で、具体的な手法が示されています。

手法開発・実施
J-NIOSHステップテスト(JST)労働者健康安全機構 労働安全衛生総合研究所
J-NIOSHステップテスト2(JST2)同上
WLAQ(質問紙による全身持久力評価)同上
新体力テスト文部科学省(スポーツ庁)
転倒等リスク評価セルフチェック票厚生労働省

質問紙(WLAQ)で済む方法も示されています。 「体力測定は大がかりで無理」という会社でも、入口はあります。

体力チェックで、最も注意すべきこと

ここを誤ると、労務トラブルになります。 指針は、情報の取扱いに1節を割いています。

健康情報等を取り扱う際には、「労働者の心身の状態に関する情報の適正な取扱いのために事業者が講ずべき措置に関する指針」…を踏まえた対応をしなければならないことに留意すること。

また、労働者の体力の状況の把握に当たっては、個々の労働者に対する不利益な取扱いを防ぐため、労働者本人の同意の取得方法や情報の取扱方法等の事業場内手続について、安全衛生委員会等や労働者の意見を聴く機会等の場を活用して定める必要があること。

例えば、労働者の健康や体力の状況に関する医師等の意見を安全衛生委員会等に報告する場合等に、労働者個人が特定されないよう医師等の意見を集約又は加工する必要があること。

押さえるべきは3点です。

  1. 本人の同意の取り方と、情報の扱い方を、事前に決めておく
  2. 決め方は、衛生委員会等での審議を通す
  3. 委員会に報告するときは、個人が特定されない形に加工する

さらに、評価基準の置き方についても踏み込んだ記述があります。

作業を行う労働者の体力に幅があることを前提とし、安全に行うために必要な体力の水準に満たない労働者がいる場合は、当該労働者の体力でも安全に作業できるよう職場環境の改善に取り組むとともに、当該労働者も作業に必要な体力の維持向上に取り組む必要があること。

基準に届かない人を外すのではなく、その人でも安全にできるように職場を直す——指針の立場は明確です。体力チェックを選別の道具にしてはいけないということです。

9. 取組4:把握した結果にどう対応するか

就業上の措置

脳・心臓疾患が起こる確率は加齢にしたがって徐々に増加するとされており、高年齢者については基礎疾患の罹患状況を踏まえ、労働時間の短縮や深夜業の回数の減少、作業の転換等の措置を講じること。

進め方についても、指針は具体的です。

・ 健康診断や体力チェック等の結果、当該高年齢者の労働時間や作業内容を見直す必要がある場合は、産業医等の意見を聴いて実施すること。

・ 業務の軽減等の就業上の措置を実施する場合は、高年齢者に状況を確認して、十分な話合いを通じて当該高年齢者の了解が得られるよう努めること。また、健康管理部門と人事労務管理部門との連携にも留意すること。

本人の了解を得る努力が明記されている点は重要です。就業上の措置は、本人に説明せずに決めると必ずこじれます。 産業医の意見書をどう使うかは、産業医の意見書の記事で詳しく扱っています。

業務のマッチング

労働者の健康や体力の状況は加齢にしたがって個人差が拡大するとされており、高年齢者の業務内容の決定に当たっては、個々の健康や体力の状況に応じて、安全と健康の観点を踏まえた適合する業務を高年齢者とマッチングさせるよう努め、継続した業務の提供に配慮すること。

「高齢者だから一律にこう」ができないのは、個人差が広がるからです。 70歳で現役同然の方もいれば、60歳で配慮が必要な方もいます。

指針は、業種による違いにも触れています。

危険有害業務を伴う労働災害リスクの高い製造業、建設業、運輸業等の労働環境と、第三次産業等の労働環境とでは、必要とされる身体機能等に違いがあることに留意すること。例えば、運輸業等においては、運転適性の確認を重点的に行うこと等が考えられること。

また、ワークシェアリングも選択肢として挙げられています。

治療と就業の両立

何らかの疾病を抱えながらも働き続けることを希望する高年齢者の治療と就業の両立については、…治療と就業の両立支援指針(令和8年厚生労働省告示第28号)に基づき取り組むよう努めること。

この両立支援指針も、2026年4月1日から適用されている新しいものです。 高年齢者では、がん・心疾患・脳血管疾患などを抱えながら働く方が増えます。治療と仕事の両立支援の記事とあわせてお読みください。

10. 取組5:教育は「高年齢者」と「管理監督者」の両方に

高年齢者への教育

高年齢者を対象とした教育においては、作業内容とそのリスクについての理解を得やすくするため、十分な時間をかけ、写真や図、映像等の文字以外の情報も活用すること。中でも、高年齢者が再雇用や再就職等により経験のない業種や業務に従事する場合には、特に丁寧な教育訓練を行うこと。

定年後に別の仕事に就く方が、最もリスクが高い——ここは強調されています。経験があるように見えて、その現場は初めてだからです。

雇入れ時の安全衛生教育は2024年4月から全業種で必須になっています。詳しくは雇入れ時の安全衛生教育の記事をご覧ください。

そのほか、指針が挙げている工夫です。

  • 危険予知訓練(KYT)を通じた危険感受性の向上教育、VR技術を活用した危険体感教育
  • 勤務シフト等から集合研修が難しい事業場では、視聴覚教材を活用した教育
  • 介護を含むサービス業では、コミュニケーション等の対人面のスキルの教育も有効
  • IT機器に詳しい若年労働者と、現場で培った経験を持つ高年齢者がチームで働く機会を積極的に設ける

管理監督者への教育

見落とされやすいのがこちらです。

事業場内で教育を行う者や高年齢者が従事する業務の管理監督者、高年齢者と共に働く各年代の労働者に対しても、高年齢者の特性と高年齢者に対する安全衛生対策についての教育を行うことが望ましいこと。

教育内容として挙げられているのは次の2つです。

  • 加齢に伴う労働災害リスクの増大への対策についての教育
  • 管理監督者の責任、労働者の健康問題が経営に及ぼすリスクについての教育

さらに、

高年齢者が脳・心臓疾患を発症する等緊急の対応が必要な状況が発生した場合に、適切に対応をとることができるよう、事業場において救命講習や緊急時対応の教育を行うことが望ましいこと。

AEDの場所と使い方を、現場の全員が知っているか。 高年齢の従業員が増えた職場では、これが実際に問われます。

11. 産業医・産業保健体制をどう使うか

指針は、産業保健体制について明確に書いています。

高年齢者の健康管理については、産業医を中心とした産業保健体制を活用すること。また、保健師等の活用も有効であること。産業医が選任されていない事業場においては、地域産業保健センター等の外部機関を活用することが有効であること。

50人未満で産業医がいない会社向けに、地域産業保健センター(地さんぽ)が明示されています。 無料で使える公的な仕組みです。

もう1つ、指針が挙げているのが相談窓口です。

高年齢者が、職場で気付いた労働安全衛生に関するリスクや働く上で負担に感じている事項、自身の不調等を相談できるよう、企業内相談窓口を設置することや、高年齢者が孤立することなくチームに溶け込み、何でも話すことができる風通しの良い職場風土づくりが有効であること。

「最近きつい」と言える場所があるか。 高年齢の従業員ほど、言い出しにくいものです。

職場巡視との組み合わせ

産業医の職場巡視は、この指針の取組と相性が良い仕組みです。段差・照度・手すり・床の滑り・警報音——指針が挙げている項目は、ほとんどが巡視で確認できるものです。

巡視のチェックリストに「高年齢者の視点」を1列足すだけでも、リスクアセスメントの材料が集まります。

12. 50人未満の事業場はどうするか

努力義務に、事業場規模の要件はありません。 62条の2は「事業者は」と書いており、人数で区切っていません。

ただし、指針は規模に応じた現実的な書き方をしています。

項目50人以上50人未満
調査審議衛生委員会等で調査審議労働者の意見を聴く機会等を通じ、労使で話し合う
健康管理産業医を中心とした産業保健体制地域産業保健センター等の外部機関を活用
リスクアセスメントリスクアセスメント指針に基づく手法同一業種の他の事業場の好事例等を参考に、意見を聴く仕組みを作る

指針は、リスクアセスメントが定着していない業種についても配慮しています。

小売業、飲食店、社会福祉施設等のサービス業等の事業場で、リスクアセスメントが定着していない場合には、同一業種の他の事業場の好事例等を参考に、職場環境改善に関する労働者の意見を聴く仕組みを作り、負担の大きい作業、危険な場所、作業フローの不備等の職場の課題を洗い出し、改善につなげる方法があること。

まず現場の人に聞く。 ここから始めてよい、と指針が言っています。

13. エイジフレンドリー補助金(令和8年度)

職場環境の改善には費用がかかります。指針も「補助制度を活用して、職場環境の改善を図ること」と明記しています。

令和8年度(2026年度)エイジフレンドリー補助金の内容です。

コース補助対象補助率上限額
Ⅰ 専門家総合対策コース 第1段階(A)外部専門家によるリスクアセスメントの実施4/5100万円(B・Cとの合計)
Ⅰ 第2段階(B)身体機能の低下を補う設備・装置の導入等1/2100万円(Aとの合計)
Ⅰ 第2段階(C)転倒防止・腰痛予防の運動指導等1/2100万円(Aとの合計)
Ⅱ 熱中症対策コース暑熱環境での身体機能を補う装置・装備1/2100万円
Ⅲ コラボヘルスコースコラボヘルス等の健康保持増進の取組3/430万円

※いずれも消費税を除く額です。

対象になる会社

次のいずれも満たす中小企業事業者です。

  • 1年以上事業を実施していること
  • 役員を除き、自社の労災保険適用の高年齢労働者(60歳以上)が常時1名以上就労していること

60歳以上が1人いれば対象になります。 「高齢者をたくさん雇っている会社向け」ではありません。

申請の窓口と期間

令和8年度の補助事業者は一般社団法人 日本労働安全衛生コンサルタント会で、申請はこちらに行います(厚生労働省が直接受け付けるものではありません)。

申請受付期間は令和8年5月20日から10月31日までです。ただし専門家総合対策コースの第1段階(外部専門家によるリスクアセスメント)には別の期限が設けられており、厚生労働省のページでは令和8年9月30日まで延長されたと案内されています(リーフレットには8月31日と記載されているものがあります)。

予算額に達した場合は、期間の途中でも受付を終了することがあります。 申請を検討される場合は、必ず厚生労働省および申請窓口の最新の案内をご確認ください。

なお、C(運動指導等)は「高年齢労働者を含む全ての労働者」が対象です。60歳以上だけの取組でなくてよい、という点は使い勝手が良いところです。

14. 高年齢者雇用安定法との違い

「高年齢」と聞くと、雇用の話(何歳まで雇うか)と混同されがちです。法律が違います。

労働安全衛生法高年齢者雇用安定法
関心事安全と健康雇用の確保
主な規定62条・62条の29条・10条の2
65歳まで—雇用確保措置=義務(定年引上げ・継続雇用制度・定年廃止のいずれか)
65〜70歳—就業確保措置=努力義務(上記+創業支援等措置)
高年齢者対策62条の2=努力義務—

定年(六十五歳未満のものに限る。…)の定めをしている事業主は、その雇用する高年齢者の六十五歳までの安定した雇用を確保するため、次の各号に掲げる措置…のいずれかを講じなければならない。

(高年齢者等の雇用の安定等に関する法律 第9条)

…六十五歳から七十歳までの安定した雇用を確保するよう努めなければならない。

(同 第10条の2)

65歳までは義務、65〜70歳は努力義務という構造です。

この2つは、実務ではつながります。 継続雇用で働き続ける方が増えれば、安衛法62条の2の努力義務が効いてくる場面も増えます。「雇い続ける」と決めたなら、「安全に働ける職場にする」までがセットです。

15. 明日から何をするか

優先順位をつけて並べます。

#やること誰が
1社内文書の「エイジフレンドリーガイドライン」を「指針」に改める人事労務
2衛生委員会の議題に「高年齢者の労働災害防止」を1回入れる衛生管理者・産業医
3過去の労災・ヒヤリハットを、年齢別に並べ直してみる安全衛生担当
4職場巡視で、段差・手すり・照度・床の滑り・警報音を確認する産業医・衛生管理者
5直せる段差・つけられる手すりから着手する(順位2番目の工学的対策)総務・施設
6体力チェックを導入するなら、同意と情報の扱い方を先に委員会で決める人事労務・産業医
7管理監督者向けに、高年齢者の特性についての教育を1回行う人事労務
8補助金の対象になるか確認する(60歳以上が1人いれば対象)経営・総務

1から4は、費用がかかりません。 まずここからで十分です。

よくある質問

Q. エイジフレンドリーガイドラインは、もう使えないのですか

2026年4月1日に廃止されています。 代わりに「高年齢者の労働災害防止のための指針」(エイジフレンドリー指針)が適用されています。内容の骨格は引き継がれていますが、根拠が通達から労働安全衛生法62条の2第2項に変わり、厚生労働大臣の公示になりました。 社内規程や委員会資料に旧名称が残っている場合は、改めておくことをおすすめします。

Q. 「高年齢者」とは何歳からですか

指針は、高年齢者の年齢を定義していません。 労働災害の統計では60歳以上が使われており、エイジフレンドリー補助金の対象要件も「60歳以上が常時1名以上」です。ただし指針は、「身体機能の低下は高年齢者に限られるものではない」として、青年・壮年期からの体力チェックも望ましいとしています。年齢で線を引くより、個々の状況を見るという立場です。

Q. 努力義務なので、やらなくても罰則はありませんね

罰則はありません。 ただし2点、注意が必要です。1つは、62条の2第3項により、国が指針に従って事業者に指導・援助を行えるようになったことです。もう1つは、実際に労災が起きた場合です。安全配慮義務(労働契約法5条)が問われる場面で、指針に示された措置を講じていたかどうかが判断材料になり得ます。 法的な評価は個別の事案によりますので、具体的な件は弁護士等にご確認ください。

Q. 体力チェックの結果が悪い従業員を、配置転換してよいですか

指針は、その逆の考え方を示しています。 「安全に行うために必要な体力の水準に満たない労働者がいる場合は、当該労働者の体力でも安全に作業できるよう職場環境の改善に取り組む」とされています。まず職場を直す、というのが順番です。就業上の措置を講じる場合も、産業医等の意見を聴き、本人に状況を確認して十分な話合いを通じて了解が得られるよう努めることが求められています。体力チェックを選別の道具として使うと、指針の趣旨から外れます。

Q. 体力チェックの結果は、衛生委員会に報告してよいですか

個人が特定されない形に加工する必要があります。 指針は「労働者の健康や体力の状況に関する医師等の意見を安全衛生委員会等に報告する場合等に、労働者個人が特定されないよう医師等の意見を集約又は加工する必要がある」と明記しています。また、同意の取得方法や情報の取扱方法といった事業場内手続そのものを、衛生委員会等での審議を通じて定めることが求められています。

Q. 従業員10人の会社です。それでも対象ですか

対象です。 安衛法62条の2に事業場規模の要件はありません。ただし指針は規模に応じた進め方を示しており、衛生委員会がなければ「労働者の意見を聴く機会等を通じ、労使で話し合う」、産業医がいなければ「地域産業保健センター等の外部機関を活用する」とされています。エイジフレンドリー補助金も、60歳以上が常時1名以上いれば申請できます。

Q. 何から手をつければよいですか

リスクアセスメントです。 指針は「1で実施したリスクアセスメントの結果に基づき、2〜5を参考に優先順位の高いものから取組事項を決める」という構造になっています。いきなり設備を買うのではなく、過去の労災・ヒヤリハットから自社の危険源を洗い出すところから始めてください。そのうえで対策を選ぶ際は、ア:危険の除去 → イ:工学的対策(手すり・段差解消)→ ウ:管理的対策 → エ:個人用の装備という優先順位が示されています。

Q. 転倒対策として、まず何が有効ですか

指針の優先順位に従えば、階段の手すりと段差の解消(工学的対策)です。 加えて、床や通路の滑りやすい箇所への防滑素材の採用、防滑靴の利用、そして滑りの原因となる水分・油分を放置せずこまめに清掃することが挙げられています。指針は「転倒災害は危険に感じられない場所で発生していることも多い」と指摘しており、「危ない場所」だけを見ていると見落とします。

まとめ

#押さえるところ
12026年4月1日、安衛法62条の2により努力義務になりました(令和7年法律第33号)
2旧エイジフレンドリーガイドラインは同日廃止。新しいのはエイジフレンドリー指針(厚生労働大臣公示第1号)
362条(適正な配置)と62条の2(環境・管理)は別の条文。両方生きています
4休業4日以上の労災の29.3%が60歳以上(令和5年)
5指針は5つの取組。出発点はリスクアセスメント
6対策の優先順位はア危険の除去→イ工学的対策→ウ管理的対策→エ個人用装備
7「注意喚起」より「段差を直す」が先
8体力チェックは同意と情報の扱いを衛生委員会等で先に決める
9基準に満たない人を外すのではなく、その人でも安全にできるよう職場を直す
1050人未満も対象。地域産業保健センターと補助金が使えます

参考・出典

  • 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第62条・第62条の2(e-Gov法令検索)
  • 労働安全衛生法及び作業環境測定法の一部を改正する法律(令和7年法律第33号)および同法の概要(厚生労働省)
  • 高年齢者の労働災害防止のための指針(令和8年2月10日 高年齢者の労働災害防止のための指針公示第1号/令和8年4月1日適用)
  • 「高年齢者の労働災害防止のための指針」について(令和8年2月10日付け基発0210第1号)
  • 「高年齢者の労働災害防止のための指針」について(令和8年2月25日付け基安安発0225第2号)
  • 【リーフレット】高年齢者の労働災害防止のための指針(エイジフレンドリー指針)を策定しました(厚生労働省)
  • 令和8年度エイジフレンドリー補助金 リーフレット(厚生労働省・一般社団法人日本労働安全衛生コンサルタント会)
  • 高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)第9条・第10条の2(e-Gov法令検索)
  • 参考(廃止):高年齢労働者の安全と健康確保のためのガイドライン(令和2年3月16日付け基安発0316第1号/令和8年4月1日廃止)

本記事は2026年9月15日時点の情報に基づいています。 法令・通達・補助金の内容は改正されることがありますので、実務では最新の原文をご確認ください。補助金の要件・期間は必ず申請窓口の最新の案内をご確認ください。個別の事案の法的評価については、専門家にご相談ください。